イスラム教徒はなぜ豚肉と酒が禁止なの? なぜラマダン(断食)をするの?[60分でクルアーン5]

【60分でクルアーン】全体の目次!

 

このシリーズは、クルアーンの重要な記述をテーマごとに抜粋してできるだけ分かりやすく説明していくことを目的にしています。なお、クルアーン本文は難解なため一部分かりやすい表現に変えてあります。

結論から言ってしまうと、イスラム教徒が原則的に飲食を禁じられているものは「豚肉」と「お酒」だけということになります。しかしそこには調理方法や断食などの厳しいルールがあり、特に海外ではうかつに外食もできなくなります。ここではそもそもクルアーンには何と書いてあるのか、なぜそんな規定があるのか、についてご紹介していきたいと思います。

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豚肉の禁止の理由

クルアーンを読む限り、イスラム教徒が原則的に食べてはいけない生き物は「豚肉」だけということになります。

2-167
アッラーフが汝(なんじ)らに禁じたもうた食物は、死肉、血、豚の肉、それから屠る時にアッラーフ以外の名が唱えられたもののみ
ただし、やむなく食べた場合には罪にはならない。

これはイスラム教徒が食べることを許されたものを表すアッラーフの言葉になります。死因不明の肉や死後どれだけ経過したかわからない肉を食べるのは危険ですので「死肉」を禁ずるのは分かりやすいと思います。
屠る時にアッラーフの名を唱える」とあるため、食べられる肉はイスラム教徒が「アッラーフアクバル(神は偉大なり)」と唱えて殺した動物の肉、とされています。しかしこれも、自らとどめをさすことによって死因不明の肉や腐乱した肉(死肉)を食べさせないため、とも解釈できます。
ですので原則的に食べてはいけない生き物は「豚肉」だけになるみたいです。 これには豚は牛などの草食動物と異なり、雑食性で穀物も食べるため人間と食べ物が重なってしまい人間の食料が不足するという理由の他、 豚は不潔でトキソプラズマなどの感染症を媒介することが知られていたから、といった理由もあるようです。 つまりこれらの制限は「食料の安定確保」と「衛生面への配慮をすることで病気を未然に防ぐこと」を狙っているのではないかと思われます。

ユダヤ人の食べ物の制限が多い理由がちょっと……

実は「旧約聖書レビ記」では同じ神様(ヤハウェ=アッラーフ)がユダヤ人に対してのみ数多くの食べ物の制限を設けています。 (例:蹄が割れて反芻するもの(牛など)は食べても良いが、 イワダヌキ、のうさぎ、イノシシはだめ、 ウロコのあるものは食べて良いが、昆虫はだめ、 カラス、コウモリもダメなどなど…)
驚いたことにアッラーフがその理由を「クルアーン」でバッチリ説明しています。

6-147
ユダヤ教の人々には~(中略:旧約聖書で認めたもの)~を除きご法度にしておいた。 これは彼ら(ユダヤ人)が不遜(思い上がっている)だからその報いじゃ

ユダヤ教徒もイスラム教徒も今でもこれらの食事のルールを守っていますが、ユダヤ人だけ食事のルールが厳しい理由が「不遜(思い上がっている)だから、というのはちょっと驚きですよね。 実は当時のユダヤ人たちは「アラブ人が預言者になれるわけがない」とムハンマドを否定していたため関係が悪かったそうです。

酒の禁止の理由

イスラム教はお酒の禁止も有名です。

5-92
これ信者の者よ、と賭矢(賭博)と偶像神と占い矢(矢を使った占い)はいずれも厭うべきこと、サタンの業(わざ)なので心して避けよ。サタンの狙いは(中略)アッラーフを忘れさせ、礼拝を怠るように仕向けるところにある

偶像崇拝が神への「信仰心を薄れさせるため」禁止されるのはよくわかりますが、お酒も同じ理由で禁止されていたということなのですね。しかしイスラム教の天国には「お酒の流れる川」があり、死後(来世)での飲酒は認められています。アッラーフに「神を信じるのであれば現世では酒を絶て」とためさているようです。
実は過度の飲酒は犯罪率の増加へと繋がります。そのため 「社会秩序の維持」という裏の狙いもあるのではないかと思われます。

調理方法の問題点とハラル

飲食の原則的なルールは、「豚肉」と「酒」が駄目で、肉類は屠る時にイスラム教徒が「アッラーフアクバル」と唱えたもののみ、ということになります。しかし特に海外において、このルールを遵守した食生活を送ることは、非常に困難になります。 日本の飲食店で出す料理の材料の準備に、普通「アッラーフアクバル」とか言わないですよね。調味料のみりんや白ワインも酒なのでアウトです。 そこでイスラム教徒も食べられますよという意味合いで、「ハラルHALAL(許されたもの)」という認証を飲食店の看板に表示します。「ハラル」とは「イスラム教の教えに則った方法で調理されたもの」を意味します。 定められた方法で動物を屠り、調理場でもアルコール消毒ではなく塩素消毒をしているそうです。

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断食(ラマダン)

ラマダン(断食)というのは、イスラム教徒の守らなければならないとされる五行(ごぎょう)の1つで、 イスラム暦9月の一ヶ月間、日の出から日没までの間、飲食を絶つことを言います。
クルアーンには断食(ラマダン) についてはこのように書かれています。

2-179,181
これ信者のものよ、断食も汝らの守らねばならぬ規律であるぞ。(これを守れば)きっとお前達にも本当に神を恐れる気持ちが出てこよう
クルアーンが 人々の導きとして、また救済として啓示されたのが「ラマダン月」である。 誰でも「ラマダン月」に家に居るものは断食せよ。ただしその時病気か旅行中であれば、 いつか別の時にそれだけの日数断食すれば良い。 まだ断食をすることができるのにしなかった場合は、貧者に食物を施すことで償いをすること。

クルアーンによると「断食(ラマダン)」の目的は、「神への信仰心を高めるため」ということになるようです。 しかし断食できなかった場合は貧者に施せ」とあるため「飢えに苦しむ貧しい者の心を知ること」という理由もあるだろうと言われています。また「断食の苦行」を裕福な人から貧しい人までみんなで共有することで、結果的に「イスラム教徒全体の連帯感(団結力)が高まっている」とも考えられています
一方でアッラーフは「病気や旅行中などやむを得ない場合は延期してもいいよ」という寛容な内容も伝えています。「旅行中」というのは砂漠の炎天下での旅を思い浮かべてください。水分補給なしはまずいですよね 。上の「豚肉などの禁止(2-167)」においても「やむなく食べた場合には罪にはならない。」とありましたよね。アッラーフには、従わない者は地獄行きという厳格な側面(ジャラールと言う)と、このような優しい側面(ジャマールと言う)の二面性を備えています。

クルアーンの特徴は弱者への配慮と救済の色が濃いことです。これはムハンマドが幼少期に親族に相次いで死なれ、孤児同然の辛い経験をしたことが影響しているからとも言われます。この貧者に優しい社会主義的思想こそが、今なお世界中に信者を増やし続けている一つの要因になっていると考えられています。

五行(ごぎょう)とは?

五行(ごぎょう)とはイスラム教徒が行うべき5つの行いのこと

①信仰告白 アッラーフの他に神はなし、ムハンマドは神の使徒なり。 これが「私はイスラム教を信じています」という信仰告白になります。
②礼拝 1日に5回、聖地メッカの方向を向き決められた時間にお祈りをすること。
③喜捨(きしゃ) 貧しい人たちへの寄付が義務付けられており、 所得の2.5%程が徴収されることもあるそうです。
④断食(ラマダン) イスラム暦の9月の1ヶ月間、 日の出から日没まで飲食を断つこと。
⑤巡礼 一生に一度は聖地メッカに巡礼することが望ましいとされています。

これにイスラム教徒が信じるべき6つのもの(六信)を加えて「六信五行(ろくしんごぎょう)」と言います。

ラマダンの始まりはユダヤ教?

実はユダヤ教には「ヨムキプール」と呼ばれる「贖罪の日」があり、日没から翌日の日没まで断食する習慣があります。これをムハンマドが見て取り入れ、 イスラム暦の9月(ラマダン月)の一ヶ月間、夜明けから日没まで断食をするように変わったと言われています。
一つ注意しておきたいことは、イスラムでは太陰暦を使っているため、 太陽暦とは一致しいないということです。毎年少しずつずれていくため、真夏のラマダン月もあれば真冬のラマダン月もあります。

エンディング

いかがでしたでしょうか。クルアーンでは食事の制限の理由について「ユダヤ人が不遜(思い上がっている)」だとか「信仰心を高めるため」となっていましたが、 どうやら「食料の安定確保」や「社会秩序の維持」、「衛生面に配慮することで病気を未然に防ぐこと」、さらに「裕福な人から貧しい人まで苦楽を共にすることでイスラム教徒全体の団結心を高めること」という裏の理由もあるようです。 この辺りに巨大なイスラム帝国の繁栄や、今なお信者を増やし続けている一つの要因があるのかもしれません。アッラーフは指導者としても大変優秀だったようですね。

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