「サンタ・ルチア」の日本語歌詞をイタリア語版歌詞と比較してみた!

先日ナポリ民謡の「サンタ・ルチア」を日本語に翻訳してみたのですが、調べてみるとどうやら複数の日本語歌詞が存在することが分かりました。
 
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確認できたのは、小松清(コマツキヨシ)さん、堀内敬三(ホリウチケイゾウ)さん、そして妹尾幸陽(セノオコウヨウ)さんの3つの訳詞。
 
もともとナポリ語で書かれたこの曲がイタリア語に翻訳されたのが1849年(テオドロ・コットラウ訳詞)と古かったこともあり日本語版歌詞もかなり古いのですが、比べてみると歌詞の中身はそれぞれ結構異なるみたいです。
 
そこで今回作ったイタリア語版からの翻訳を使って、誰の訳詞がイタリア語版に一番近いのか、どのあたりが異なるのか、といったものを検証してみたいと思います。
 
 
 
まずはその前にこの「サンタ・ルチア」という曲がどんな歌なのかを簡単に説明しておきますね。
 
この「サンタ・ルチア」というのは4世紀初めに殉教したキリスト教の聖人「聖ルチア」のことですが、歌詞の内容は彼女の伝承に関するものではありません。彼女の名前をつけたナポリのサンタルチア港(聖ルチアがナポリの船乗りの守護聖人になったことに由来する)においてナポリの船頭(観光客を乗せるボートのこぎ手)が、「海上には銀色の星が輝く、波は穏やかで風はそよぐ」などとナポリの美しさを称えた上で、「さあお客さん、私の小舟に乗りなよ!」と呼びかけるCMソングです。
 
 
3人の訳詞を順番に紹介していきますが、まずはこの内容を頭に入れておいてください。批評は最後の感想で行います。
 
※一応各訳詞の発表年を記載しておきますが、もしかすると違ってるかもしれません。不確かな情報でごめんなさい。
 
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小松清訳詞!

訳詞:小松清
1947年発表
※批評目的での引用です。
 
1番
空に白き 月の光
波を吹く そよかぜよ
かなた島へ 友よ 行かん
サンタルチア サンタルチア
 
2番
しろがねの 波に揺られ
船は軽(かろ)く 海を行(ゆ)く
かなた島へ 今宵(こよい) また
サンタルチア サンタルチア
 
3番
友よいざ 船に乗りて
波を越え とく行(ゆ)かん
かなた島へ 友よ いざ
サンタルチア サンタルチア
 
 
 
 

堀内敬三訳詞!

訳詞:堀内敬三
1927年発表
 
1番
月は高く 海に照(てる)り
風も絶(た)え 波もなし
来(こ)よや友よ 船は待(ま)てり
サンタ・ルチア サンタ・ルチア
 
2番
ほのかなる 潮(しお)の香(か)に
流(なが)るるは 笛の音(ね)か
晴(は)れし空に 月は冴(さ)えぬ
サンタ・ルチア サンタ・ルチア
 
3番
愛(め)ぐしナポリ 夢の国
憂(うれ)いなく 悩みなし
水夫(かこ)の歌の 遠くひびく
サンタ・ルチア サンタ・ルチア
 
4番
いざや出(い)でん 波の上
月もよし 風もよし
来よや友よ 船は待てり
サンタ・ルチア サンタ・ルチア
 
 
 

妹尾幸陽訳詞!

訳詞:妹尾幸陽
1920年発表
イタリア語歌詞の1,2,5,6番に対応
 
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1番
星影(ほしかげ)白く  海を照(て)らし
追風(おいて)静かに 波と戯(たわむ)れ
わが舟はやく 海面(うなも)をすべる
サンタ・ルチア サンタ・ルチア
 
2番
風に揺られて 静かにすべる
舟やる時の その嬉しさ
友よさらば  来(きた)り漕(こ)げや
サンタ・ルチア サンタ・ルチア
 
3番
懐(なつか)しナポリ 幸(さち)の国
天(あめ)も地(つち)も われら迎(むこ)う
美なる国に 幸あれよ
サンタ・ルチア サンタ・ルチア
 
4番
なぜに待つや 夕映(ゆうばえ)清(きよ)く
涼(すず)しき風は われら誘う
わがよき舟に 集(つど)い来(きた)れ
サンタ・ルチア サンタ・ルチア
 
 
 

イタリア語版歌詞!

訳詞:テオドロ・コットラウ
1849年発表
 
1番
Sul mare luccica l’astro d’argento.
Placida è l’onda, prospero è il vento.
Venite all’agile barchetta mia,
Santa Lucia! Santa Lucia!
 
2番
Con questo zeffiro, così soave,
Oh, com’è bello star sulla nave!
Su passeggeri, venite via!
Santa Lucia! Santa Lucia!
 
3番
In fra le tende, bandir la cena
In una sera così serena,
Chi non dimanda, chi non desia.
Santa Lucia! Santa Lucia!
 
4番
Mare sì placida, vento sì caro,
Scordar fa i triboli al marinaro,
E va gridando con allegria,
Santa Lucia! Santa Lucia!
 
5番
O dolce Napoli, o suol beato,
Ove sorridere volle il creato!
Tu sei l’impero dell’armonia!
Santa Lucia! Santa Lucia!
 
6番
Or che tardate? Bella è la sera.
Spira un’auretta fresca e leggiera.
Venite all’agile barchetta mia,
Santa Lucia! Santa Lucia!
 
 
 

管理人ハク翻訳!

僕がイタリア語の歌詞を翻訳したものです。これは単語の意味や文法を重視しているため、意訳ではなく直訳に近いと思ってください。完全に字数オーバーで歌うための訳詞ではありません。
単語の意味や発音についてはこちらで解説しています。
 
1番
海の上に銀色の星が輝く
波は穏やかで風はそよぐ
私の軽快な小舟に来て
サンタ・ルチア!
 
2番
西風とともに、とても快く
おおなんと美しい、船の上にいるのは!
さあ乗客よ、ここに来て!
サンタ・ルチア!
 
3番
テントの間で夕食をとる
こんな澄みきった夜に
誰も求めないし、誰も望んでいない
サンタ・ルチア!
 
4番
海はとても穏やかで、風はとても優しい
苦しみも海で忘れてしまう
そして喜んで叫んでいる
サンタ・ルチア!
 
5番
おお穏やかなナポリよ、至福の土地よ
その神による創造物も微笑みたかった
君は調和の帝国
サンタ・ルチア!
 
6番
さあどれだけ待つのか?夕暮れは美しい
さわやかで軽い風が吹く
私の軽快な小舟に来て
サンタ・ルチア!
 
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個人的な感想!

大前提としてこの曲の原曲はイタリア語の歌詞ではなくナポリ語の歌詞です。1849年にテオドロ・コットラウさん(1827〜1879年)がイタリア語に翻訳し、これが世界的に定着するのですが、この時点である程度の改変が加えられているようです。
 
英語版のWikipediaに原曲ナポリ語の歌詞(3番まで)があったのですが、イタリア語版とは微妙に異なっています。
 
例えばイタリア語版では1番の歌詞で海の上で輝くのは「星(l’astro)」であるのに対し、ナポリ語版では「月(la luna)」となっています。
 
僕はイタリア語が少しだけわかるのですが、ナポリ語は分かりません。ナポリ語はイタリア語に非常に近い言語なのですが、ナポリ語版の歌詞の内容はほとんど 分かりません。
 
 
 
あくまで個人的な感想ですが、今回紹介した3人の訳詞を見てみると、イタリア語版の歌詞に一番近いのは妹尾幸陽さんの訳詞
 
まず1番の歌詞の最初に登場するのが「月」ではなくイタリア語版と同じ「星(影)」。そして1番から4番の歌詞を見てみるとイタリア語版の1,2,5,6番の歌詞とはっきりと重なるところが見て取れます。
 
イタリア語版で特徴的なのが「神の創造物である至高の土地ナポリを調和の帝国」と表現する5番の歌詞なのですが、これもはっきりと3番の歌詞に表現していますし、「夕暮れ時の美しさ」を歌う6番の歌詞も4番で表現しています。それから「快い西風(zeffiro)」を歌ったイタリア語版2番も2番に表現しています。
 
 
 
ところが小松清さんと堀内敬三さんの訳詞は「星」ではなく「月」と表現しています。ですのでこの2人はイタリア語版ではなく、原曲ナポリ語版を見て訳詞を作っている可能性があります。
 
それからこの2人はイタリア語版の歌詞との対応関係がいまいちよく分かりません。
 

堀内さんの訳詞は3番の1行目で「愛ぐしナポリ夢の国」とイタリア語版の5番の特徴である「ナポリ」に言及しているのですが、2行目では「憂いなく悩みなし」とイタリア語版の4番の特徴を歌っています。その他の歌詞もイタリア語版の何番に対応しているのかがよくわからないのです。

 
小松さんに至ってはイタリア語版の特徴がさらに消えっており、ほとんど対応関係が見て取れません。
 
更に堀内さんと小松さんの訳詞についても月以外の明確な共通点があまり見受けられないのです。
 
ですのでこの2人は原曲(ナポリ語版?)の歌詞の全体を要約するという方法で日本語版歌詞を作っているのかもしれません(ナポリ語が読めないのでよくわからないのですが)。
 
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もう一つ日本語版歌詞を見て気になったのが「」という言葉。
 
少なくともイタリア語版は、ナポリの小舟の船頭が「海上には銀色の星が輝く、波は穏やかで風はそよぐ」などとナポリの美しさを称えた上で、「さあお客さん、私の小舟に乗りなよ!」と呼びかけるCMソングであって、「友」が登場する余地はないのですが、3人とも歌詞に「友」が登場しています。
 
「乗客」を「友人」に見立てているとも取れますが、特に堀内さんと小松さんの訳詞は歌詞の中に何度も「友」が登場するため、歌詞のテーマが「友人との船出(友情)」に入れ替わってしまってるような気がします。
 
それがいけないとは言わないですが、少なくともイタリア語版の世界観とはズレてしまっていると感じます。
 
 
 
いずれにせよイタリア語版の世界観を1番忠実に再現しているのは妹尾幸陽さんの訳詞です。
 
現在一般的には戦後に発表された小松清版が歌われているそうですが、個人的には妹尾幸陽版を推したいです。
 
イタリア語版5番の「ナポリの素晴らしさ」を感じさせる歌詞もはっきりと反映されていますし。
 
 
それではお元気で。
 
 
ハク
 
 
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