
戦争と平和は、トルストイが1865年から1869年にかけて発表した、ナポレオン時代のフランスとロシアの戦争を舞台にした大河歴史小説になります。
世界文学の世界最高峰と言われるほどの名作なのですが、とにかく長いことでも有名ですよね。
「いつか読みたいと思いながら、いつまでも読めない本」の代表的な存在なのではないでしょうか?
実はそんなランキングもあります。
2011年に朝日新聞が行った調査「いつかは読みたい本ランキング」では、「戦争と平和」は源氏物語、坂の上の雲、に次いで第3位にランクインされました。
出典:朝日新聞(2011/01/15付「朝日新聞」より)
国内の文学を除くと「最も読みたいいつかは読みたい本」と言えるかもしれませんね。
この「戦争と平和」の登場人物・あらすじ・感想とおすすめの読み方を10分間でご紹介します。
なお、お急ぎの方は登場人物は飛ばしていただいても問題ありません。あらすじからどうぞ。
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登場人物!
登場人物の特徴
戦争と平和を読む前に、登場人物を少し整理しておくといいと思います。
少し特徴があるのでポイントをご紹介します。
まず登場人物がとにかく多いこと。
全部で559人も登場するそうです。
準備なしでいきなり読み始めると混乱する可能性大です。
中心人物に絞って登場人物を押さえておくことをお勧めします。
もう一つ特徴があって、それは歴史上の実在の人物と、トルストイの創作による人物が入り混じっていること。
大半はトルストイの創作による人物ですが、軍の上級将校や皇帝などは歴史上の人物になります。
この物語の主人公はアンドレイ、ピエール、ナターシャの3人だと言われていますが、もちろん彼らもトルストイよる創作の人物です。
主要な登場人物の系図
年齢は1812年時点
ボルコンスキー家(貴族)
- ニコライ・ボルコンスキー老公爵 アンドレイの父親で前皇帝の重臣。高潔で勤勉だが気性が荒くわがままで、娘のマリアを苦しめる。ナポレオンのロシア戦役の途中で病死。
- アンドレイ・ボルコンスキー(34歳) ボルコンスキー家の長男で主人公の1人。志しの高い優秀な実務家で、ナポレオンに憧れるが、アウステルリッツで重傷を負い挫折。妻にも先立たれ厭世的になるが、ナターシャに出会うことで希望を取り戻す。しかしそのナターシャにも裏切られ、軍に戻りボロジノの会戦で瀕死の重傷を負う。
- マリア アンドレイの妹で信心深いキリスト教徒。田舎で父親と禁欲的な生活を送り、アンドレイの息子の面倒見る。父の死後、領地の農民の反抗にあい窮地に陥るが、ニコライ・ロストフに助けられ、ニコライと結ばれる。
ロストフ家(貴族)
- ヴェーラ ロストフ家の長女でニコライの姉。ドイツ人将校ベルグと結婚。
- ニコライ・ロストフ アウステルリッツとボロジノの会戦に参加し成長していく。従兄弟のソーニャと愛し合っていたが、経済的な理由から周囲の反発を受け破局する。偶然窮地のマリア(アンドレイの妹)を救ったことから、マリアに惹かれていく。浪費癖があり、ドーロホフに大金を巻き上げられ、ロストフ家が傾く。
- ナターシャ・ロストフ(19歳) ニコライの妹で主人公の1人。天真爛漫な美少女でアンドレイと婚約するが、アナトールにたぶらかされてアンドレイを裏切る。自分自身も深く傷つき、アンドレイの死後はピエールと結ばれる。
- ペーチャ(15歳) ニコライの弟。皇帝に心酔し軍に入隊するが、初陣で戦死。
べズーホフ家(貴族)
- ピエール・べズーホフ ロシアの大貴族べズーホフと庶民の女性の間に生まれた私生児。アンドレイの親友で主人公の1人。莫大な財産を相続するが、意思が弱く迷走と失敗を繰り返す。絶世の美女エレナと結婚するが、失敗に終わる。ナターシャを愛するするが、親友アンドレイに配慮して自分は身を引く。アンドレイの死後はナターシャと結ばれる。
クラーギン家(貴族)
- アナトール・クラーギン 大貴族クラーギン家の次男で、上流社会のプレイボーイにしてならず者。ドーロホフの悪友で、アンドレイと婚約中のナターシャをたぶらかして破局させる。ボロジノではそのアンドレイのすぐ隣で足を失う。
- エレナ クラーギン家の長女で絶世の美女。社交界の花形を飾るが性格はかなり悪い。財産目的でピエールの妻となるが、放蕩生活を続け、ピエールとは不仲。堕胎に失敗して亡くなる。
その他
- ドーロホフ 勇猛な軍人だが、気性が激しく昇格と降格を繰り返す。アナトールの悪友でロストフ・ニコライから大金を巻き上げる。エレナに手を出し、ピエールとの決闘に敗れて死にかけるが、後にフランス軍の捕虜となったピエールを救う。
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(主に3人に絞った)おおざっぱなあらすじ!
こちらは1967年ソ連制作の「戦争と平和」ダイジェスト
1805年から1813年にかけてのナポレオンのロシア侵略から撤退までのヨーロッパの大動乱の時代が舞台になります。
3人とも貴族の家の生まれになります。
ナポレオン率いるフランス軍の脅威が高まり、ロシアには不安が渦巻いている。
そんな中で物語が始まります。
優柔不断な億万長者ピエール

お人好しのピエールは相続により億万長者となります。
社交界の華で絶世の美女のエレンと結婚しますが、彼女の目的はピエールの財産。
エレンはピエールには振り向かず、自由奔放に遊び歩き回ります。
そんなエレンとドーロホフの不義の噂を耳にしたピエールは、銃の扱いも知らないくせにドーロホフに決闘を申し込む。
ところがまぐれが起こり、なんとピエールは勝ってしまう。
しかし妻エレナとの仲はますます冷え込むことになります。
アンドレイの挫折とナターシャと恋愛
軍人としての向上心の強いアンドレイは、アウステルリッツに参戦。
しかし戦いは破れ、アンドレイはナポレオンの捕虜になり挫折します。
妻リーザは息子を出産するのと同時に死亡。
アンドレイは厭世的な気分になり、生きる目的を失ってしまいます。
失意の中、アンドレイはロストフ家のナターシャに出会い、生命力あふれるナターシャに惹かれていきます。
アンドレイのナターシャへの愛情を知った親友のピエールは、自分のナターシャへの気持ちを抑え、アンドレイを励まします。
生きる喜びと活力を取り戻したアンドレイは、ナターシャとの結婚を決意。
しかし父親の反対にされ、1年間冷却期間を設けることに。

天真爛漫なナターシャは、アンドレイと恋に落ちますが、エレナの兄アナトールにたぶらかされ、アナトールと掛け落ちに同意してしまいます。
この計画は未然に防がれることになりますが、噂は広まりアンドレイの耳にも…
アンドレイはそれを許すことができず、婚約は解消へ。
自分自身のしでかしたことに、ナターシャ自身は後悔し、深く傷つきます。
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ナポレオンの侵攻とアンドレイの別れ
1812年、ナポレオン率いるフランス軍は70万の大群でロシアへ侵攻を開始。
アンドレイはナターシャを許すことができないまま従軍しますが、ボロジノの会戦で瀕死の重傷を負い、医務室へ運ばれます。
すぐ隣で重傷を負い、足をノコギリで切断されている哀れな男の顔を見ると、なんとそれがナターシャをたぶらかした恋敵アナトール。
2人はどんなことを思ったのでしょうか…
モスクワへ移送され、自分はもう助からないと覚悟するアンドレイでしたが、偶然にも大混乱のモスクワでナターシャと再会します。
ナターシャは自分の裏切りの許しを請い、2人は和解します。
しかし愛を確かめあった直後、アンドレイは力尽きてしまいました。
フランス軍撤退とナターシャとの再会
モスクワはついに陥落し、ナポレオンの支配下に入ります。
しかし物資の供給を絶たれたフランス軍は、撤退を余儀なくされます。
そんな中ピエールは、たった1人で無謀にもナポレオンの暗殺を企みますが、ドジを重ねてフランス軍の捕虜に…
ところがフランスへと連行される途中、あるロシア軍の部隊に助けられます。
それがなんとかつて妻を寝取られ、決闘までしたドーロホフ。
運命のいたずらですね。
妊娠したエレナは堕胎に失敗して命を落とし、ピエールは独身に戻ります。

ピエールはナターシャに再開しプロポーズ。
長いこと想い続けてきたピエールは、ついにナターシャと結ばれ、幸せな家庭を築くことができました。
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この小説のおすすめの読み方!
とにかく長い

この小説は本当に長いです。
新潮文庫の4巻で計算してみたところ、日本語で約180万字ほどになりました。
663字 × 2,774ページ=1,839,162字
(あくまで隙間なく文字が埋まっていたと仮定した場合の計算です)
仮に普通の読書スピードの人が、
から晩まで1日中読書した場合でも、丸8日ほどかかることになると思います(実際に僕は8日間かかりました)。
岩波文庫がおすすめ!
↑僕は新潮文庫(全4巻)の本で、地図帳を手元に置いて読みました。
ところがナポレオン戦争から200年も経過すると、地名がずいぶん変わってしまったこともあって、場所がほとんど特定できませんでした。
地図帳はめんどくさいだけであまり役に立ちません。
また、この小説は長いだけあって、登場人物も多く話も複雑です。
少なくとも主要な人物の家系図くらいは、ある程度整理しながら読み進めないと混乱する可能性が高いと思います。
↑僕は岩波文庫(全6巻)の本をおすすめします。
少なくとも当時の簡単な地図、主要な人物の紹介とその家系図、それから前巻のあらすじが載ってます。
新潮文庫は何も説明がない。
混乱して挫折する可能性が高いと感じます。
DVDとマンガで予習をしておこう!
あらかじめDVDや漫画で概要をつかんでおくことをおススメします。
邪道という人もいますが、多くの人が挫折する小説です。
いろんなものを積極的に利用して、イメージを作っておくといいと思います。
こちらはBBC制作の「戦争と平和」。映画ではなくTVドラマです。2016年末にNHKでも放送され、2017年3月にリリースされたものになります。なお、上の動画とは全く別物になりますのでご注意ください。僕も全話見ましたが、とてもよかったです。原作を読んだ方にも、読んでない方にもおすすめできます。
キャスト
- アンドレイ・ボルコンスキイ/ジェームズ・ノートン
- ナターシャ・ロストワ/リリー・ジェームズ
- ピエール・ベズーホフ/ポール・ダノ
こちらはまんがで読破の「戦争と平和」。アウステルリッツ戦以前の話がすべてカットされているうえ、若干話が変わってしまっているところもありますが、概要とあらすじをつかむことは可能だと思います。
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ロシア語のタイトルも覚えておこう!
「戦争と平和」はロシア語では「Война и мир」と書き、「ヴァイナー・イ・ミール」と発音します。「Войнаが戦争」、「иが〜と」、「мирが平和」を意味します。
発音のルールについて少し説明しておきます。
「йとи」は共に「イ」の音、「н」は「ナ行」、「р」は「巻き舌のラ行」の音を表します。
少し注意が必要なのがアクセント。ロシア語には各単語に一箇所ずつ強く長く発音するアクセントと呼ばれる箇所があります。
「o」はアクセントがある時は「オ」と発音しますが、アクセントがない「o」は「ア」と発音することになっています。
「Война」は最後の「a」にアクセントがあるため「o」は「ア」と読み「ヴァイナー」になります。
トルストイってどんな人?

トルストイはロシアでも名門の血筋を持つ貴族ですが、若い頃にはクリミア戦争に従軍しています。
実際に戦争を経験しているだけあって、戦争の描写が本当に生々しい。
読んでいてドキドキするというか、圧迫感のようなものを感じます。
トルストイは若い頃から生涯にわたって日記を書き続けたそうです。
そして自分で書き記したさまざまな実体験や人物観察をもとに、数多くの人物を描いているそうですが、そのスタイルがとにかくストイック。
トルストイはこの小説のアンドレイとピエールを足して2で割ったような人間だったそうです。
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感想!
トルストイの情熱がスゴイ!
僕がこの小説読んで強く感じたのは、トルストイのこの小説にかける意気込みと情熱。
この小説ではフランスとロシアの戦争の中で、生きる喜びや幸せを求めて、みんながそれぞれの方向に向かって必死に生きていく様子を描いています。
これだけの登場人物がありながら、すべての人間に生き生きとした魅力を感じます。
そこにはわざとらしさを感じないのですよね。
これだけ膨大な量の人物を緻密に描いているのに。
実はトルストイは若い頃から日記を書き続け、この自分の実体験や人物描写を作品の登場人物たちに盛り込んでいると言われています。
つまりトルストイには、そこに至るまでの膨大な量の作家としての貯金があり、それを高度に組み立てることで大小説を書き上げていった、ということになるようです。
ですが、結局はトルストイ本人のこの小説に対する情熱なんだと思います。
誰よりも情熱を注ぎ続けたからこそ、最高のコンテンツが出来上がったからに他ないと僕は思っています。
これだけのボリュームを描きながら、細部に至るまで全く手抜かりがないです。
最高のものを追い求める、作家としてのトルストイの情熱が、何よりも素晴らしかったのだと感じました。
僕はドストエフスキー派
トルストイは「歴史はナポレオンのような1人の英雄によって作られるのではなく、多くの人々の熱量の総和によって作られるのだ」というような歴史観を持っています。
僕はそんなにいっぱい本を読んでいるわけではないので、それがどこまで正しいのかはよくわからない。
でも概ね合っているじゃないかと思う。
何よりもトルストイがここまで情熱を傾けたこの大作を否定したくないです。
でも…トルストイがちょっとしつこい。
ちょっと主張しすぎ。
読んでいて息苦しい。
文学作品はあくまで芸術作品です。
自分の主張はほのめかす、もしくは読み取らせるような形で埋め込んでいただきたかったです。
この自分の主張をさりげなくほのめかすことにおいては、ドストエフスキーが絶妙にうまいのですよね。
広さを求めたトルストイに対し、深さを求めたドストエフスキー、
…と言われることもありますが、
僕はドストエフスキー派です。

印象に残ったところ
運命のいたずら 「お前なんでそこにいるの?」
瀕死の重傷を負ったアンドレイが医務室で治療を受けていると、隣で1人の将校が足をノコギリで切断されてうめいてる。
それがなんと、ナターシャをたぶらかした恋敵アナトール。
捕虜になり絶体絶命のピンチになったピエールを救ったのは、こちらもかつてエレンを寝とった恋敵ドーロホフ。
大混乱の戦場の生と死を分けるような中での「お前なんでそこにいるの?」という、運命のいたずらの場面なのですが……
トルストイが描くとわざとらしく感じないのですよね。
むしろみんな必死に戦っているからこそ、実際本当にあり得そうだと思えてしまいます。
これもトルストイが実際に過酷な戦場を経験しているからなのかもしれない。
僕はそのように感じました。
アンドレイの最後
ドストエフスキー派の僕が、最も印象に残ったところは、みんなと多分ちょっと違うと思います。
僕が最も印象に残った場面は、ボロジノの会戦で瀕死の重傷を負い、自分はもう助からないことを悟ったアンドレイが、
「福音書(聖書のことです)を持ってきてくれ」と頼むところ。
アンドレイは、決して神仏に頼るようなタイプではありませんでした。
クリミア戦争で、多くの仲間の死を目のあたりにしてきたトルストイが描くと本当に説得力があります。

「僕もそういうものにすがる日が、いつかきっと来るだろう。」
そんなことを改めて認識させられました。
それでは。
聖書に興味がある方にはこちらがおすすめです。
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