ロシアではソ連崩壊後しばらくの間、「愛国歌」という歌詞のない曲を国歌に採用していましたが、2000年に「ロシア連邦国歌」に変更しました。これが現在のロシア国歌になりますが、実はこれはソ連時代に採用していた「ソビエト連邦国歌」(1938年アレクサンドルフ作曲)と全く同じメロディーなります。しかも作詞者は1943年に「ソビエト連邦国歌」を作詞したセルゲイ・ミハルコフ(1913-2009)。つまり、同じ曲に同じ人が長い年月を空けて作詞し直した、という珍しい国歌になります。
このロシア国歌にカタカナ歌詞と和訳を付けました。
こちらは「ソビエト連邦国歌」
こちらは「ロシア連邦国歌」
ロシア国歌のカタカナ歌詞と和訳
〈一番〉
Россия – священная наша держава,
ラッシーヤー スヴィシェーンナヤ ナーシャ ヂェルジャーヴァ
ロシア 聖なる我らの国家
Россия – любимая наша страна.
ラッシーヤー リュビーマヤ ナーシャ ストラナー
ロシア 親愛なる我らの国家
Могучая воля, великая слава
マグーチャヤ ボーリャ ヴィリーカヤ スラーヴァ
雄大な意志、偉大なる栄光
Твоё достоянье на все времена!
トヴァヨー ダスタヤーニイェ ナ フシェ ヴリェーミナ
汝の持てるものは いつの時にも
〈コーラス〉
Славься, Отечество наше свободное,
スラーフィシャ アチェーチェストヴァ ナーシェ スヴァボードナイェ
栄光あれ、我らの自由なる祖国よ
Братских народов союз вековой,
ブラーツキフ ナローダフ サユース ヴェカヴォーイ
兄弟の如き国民の長年の結束
Предками данная мудрость народная!
プリェートカミ ダーンナヤ ムードラスチ ナロードナヤ
祖父より与えられる人々の英知を!
Славься, страна! Мы гордимся тобой!
スラーフィシャ ストラナー ムィ ガルヂームシャ タボーイ
栄光あれ祖国よ、我らは汝を誇りに思う!
単語の意味と発音
ロシア語の単語には各単語に一カ所づつ「アクセント」と呼ばれる個所があり、その個所を「強く長く」発音するというルールがあります。その「アクセント」の位置に下線を引いて太字にしてあります。また、ロシア語の「ル」には「л」「p」の2種類があり、ひらがなの「る」は巻き舌の「p」の音を表します。発音については下でもう少し解説します。
Россия :「ロシア」のことだが発音は(らッシーヤ)
священная :「聖なる、神聖な」(スヴィシェーンナヤ)
наша :「我々の」(ナーシャ)
держава :「国家」(ヂェるジャーヴァ)
любимая :「愛する、親愛なる」(リュビーマヤ)
страна :「国、土地」(ストらナー)
Могучая :「強大な、雄大な」(マグーチャヤ)
воля :「意志」(ヴォーリャ)
великая :「偉大な」(ヴィリーカヤ)
слава :「栄光」(スラーヴァ)
Твоё :「君の」(トヴァヨー)
достоянье :「資産、財産」(ダスタヤーニイェ)
на :前置詞「~に、で」(ナ)
все :「いつも」(フシェ)
времена :時(ヴりェーミナ)
Славься :「称賛する」(スラーフィシャ)
Отечество :「祖国」(アチェーチェストヴァ)
свободное :「自由な」(スヴァボードナイェ)
Братских :「兄弟の」(親密な)(ブらーツキフ)
народов :「国民の」(ナろーダフ)
союз :「結合、同盟」(サユース)
вековой :「永年の」(ヴェカボーイ)
Предками :「祖父」(プりェートカミ)
данная :「所与の」(ダーンナヤ)
мудрость :「知恵、叡知」(ムードらスチ)
народная :「国民の」(ナろードナヤ)
Мы :「私達は」(ムィ)
гордимся :「誇る、自慢する」(ガるヂームシャ)
тобой :あなた(タボーイ)
ロシア語プチ講座
キリル文字を知っておこう!
ロシア語の読み方について少し解説します。ロシア語のアルファベットを「キリル文字」と言いますが、全部で33文字から構成されています(英語は26文字)。英語と表記・発音が同じものもあれば、表記は同じなのに読み方が異なるイヤラシイ文字、そして全く新しい文字も存在します。少し大変ですが、これさえ覚えてしまえば一応読むことはできるようになりますので、余裕のある方は挑戦してみてください。
大文字 | 小文字 | 呼び方 | 発音 | 説明 |
А | а | アー | ア | 母音の一つで日本語の「あ」の音。 |
Б | б | ベー | ブ | 英語のB「ブ」の音であり、下のB「ヴ」との違いに注意!単語の最後では「プ」の音。 |
В | в | ヴェー | ヴ | 英語のB「ビー」と書いて英語のV「ヴ」の音になるイヤラシイ文字。単語の最後では「フ」の音。 |
Г | г | ゲー | グ | 日本語の「ガ行」の音で、単語の最後では「ク」の音。 |
Д | д | デー | ドゥ | ほとんどの日本人が別の使い方をしている文字。英語のDの音で、単語の最後では「トゥ」。 |
Е | е | イェー | イェ | 母音の一つで、アクセントのないときは「イ」に近い音。 |
Ё | ё | ィヨー | ィヨ | 母音の一つで、この文字があるところが単語のアクセントカ所になる。 |
Ж | ж | ジェー | ジ | 英語のJに近く、舌をどこにも触れさせずに口を突き出して「ジー」と発音する。 |
З | з | ゼー | ズ | 英語のzの音。 |
И | и | イー | イ | Nの逆の形。母音の一つで、口を横にひらいて「イ」と発音。 |
Й | й | イ・クラートカヤ | ィ | 短い「イ」の音。 |
К | к | カー | ク | 英語のKの音。 |
Л | л | エル | ル | 英語のLの音で、通常の「ル」。巻き舌にしない。 |
М | м | エム | ム | 英語と同じMの音だが、小文字の形がMを小さくしただけ。 |
Н | н | エヌ | ヌ | 英語のH(エイチ)と書いてN(エヌ)と発音するイヤラシイ文字。 |
О | о | オー | オ | 英語のOと同じ音の母音で、アクセントのないときは「ア」の音。 |
П | п | ペー | プ | 英語のP「ピー」の音。下のP「る」と間違えやすいので注意! |
Р | р | エる | る | 英語のRに相当するが、音は巻き舌の「る」。Л「ル」と区別するためひらがなの「る」と書かれることが多い。 |
С | с | エス | ス | 英語のSの音。 |
Т | т | テー | トゥ | 英語と同じTの音だが、小文字はTを小さくしただけ。 |
У | у | ウー | ウ | 口を突きだして「ウー」と発音する母音。 |
Ф | ф | エフ | フ | 新しい文字だが英語のF「エフ」の音。 |
Х | х | ハー | フ | のどの奥から勢いをつけて「ハー」と息を吐きだしながら出す音。 |
Ц | ц | ツェー | ツ | 「ツァ」「ツィ」「「ツェ」など音の表記に使われる日本語の「ツ」と似た音。 |
Ч | ч | チェー | チ | 日本語のチより舌の位置がやや後ろ。 |
Ш | ш | シャー | シ | 英語のSHに似た音で、舌を口のどこにも触れさせずに口を突き出して「シー」と発音する。 |
Щ | щ | ㇱシャー | シ | 静かにさせる時の「シー」の音で、長めに発音する。 |
Ъ | ъ | トビョールドゥイ・ズナーク - |
硬音記号(子音と母音を分けるために使う)。 | |
Ы | ы | ゥイ | ゥイ | 口を横に引いた「イ」の口のまま「ウイ」と発音する母音。 |
Ь | ь | ミャーフキ・ズナーク - |
イ | 軟音記号(短い「イ」の音)。 |
Э | э | エー | エ | 母音の一つで、口を横に引いて「エ」と発音。 |
Ю | ю | ユー | ユ | 母音の一つで、口を横に引いて「ユ」と発音。 |
Я | я | ヤー | ヤー | R「アール」はPに音を取られ消えたかと思えば、まさかの反転での登場。母音の一つで、アクセントないときは「イ」の音。 |
発音のルールをもう少し解説!
ロシア語には英語のような例外的な発音が少なく、基本的にスペル通りの発音になりますが、いくつかのルールがあります。まず、ロシア語の単語には各単語に一カ所づつ「アクセント」と呼ばれる個所があり、その個所を「強く長く」発音することになっています。さらに文字によっては「アクセント」と「それ以外」で発音が変化する文字が存在します。
例えば「O」は「アクセント」カ所では「オ」と発音するのに対し、「それ以外」のカ所では「ア」と発音することになっています。出だしの「Россия」という単語は「ロシア」を意味しますが、アクセントが「и」にあるため「o」は「ア」と読み、この単語は「らッシーヤ」と読むことになります。5行目の「свободное」は「自由な」を意味する形容詞ですが、アクセントが真ん中の「о」にあるため、真ん中の「о」だけを「オ」と、両端の「o」は「ア」と読み、「スヴァボードナイェ」と発音することになります。同様にアクセントのない「Я(ヤー)」「Е(イェ)」は「イ」に近い音になります。
有声子音 | 無声子音 |
Б(ブ) | П(プ) |
В(ヴ) | Ф(フ) |
Г(グ) | К(ク) |
Д(ドゥ) | Т(トゥ) |
Ж(ジュ) | Ш(シュ) |
З(ズ) | С(ス) |
こんにちは。「戦争と平和」について知りたいことがあって調べているうちにこちらにたどり着きました。なかなか無いロシア語についての解説や国歌までまとめられていて素晴らしいと思いました。
これで思い出したのが、私の祖母が生前旧ロシア帝国国歌を歌えると言っていたことです。チャイコフスキーの序曲「1812年」にはよく知られたフランス国歌とともにこの旧ロシア帝国国歌のフレーズも入っていると申しておりましたが、残念ながらそれがどの部分か私にはわからないうちに祖母は亡くなってしまいました。
ダメモトでお伺いしますが、旧ロシア帝国国歌の歌詞をリクエストさせていただくことはできませんでしょうか。突然の訪問で厚かましいお願いをいたしましてすいません。
管理人のハクです。
リクエストありがとうございます。嬉しいです。
調べてみると確かに「チャイコフスキーの序曲1812」には「フランス国歌」と「ロシア帝国国歌」のメロディーが使われているようです。
この作品は1812年に起こったナポレオンによるロシア戦役を描いた楽曲で、まさに「戦争と平和」の世界を音楽で描いたような作品になるようなのですが、
楽曲の中ではロシア領土になだれ込むフランス軍の象徴として「ラ・マルセイエーズ」のメロディーが度々挿入され、モスクワを取られるも最終的にこれを撃退するロシア軍の象徴として「ロシア帝国国歌」のメロディーが終盤で使われているようです。
正確にはこの「ロシア戦役」の戦勝を記念して建てられた「救世主ハリストス大聖堂」の記念式典で使うために作られた曲、ということになるのですが、この大聖堂が完成するのが戦争から70年後の1882年。
ですのでタイトルは「序曲1812」ですが、作曲自体は1882年(チャイコフスキー)ということになるみたいです。
「日本人でも歌えるようなロシア帝国国歌の歌詞とカタカナ・和訳と解説」ですね。わかりました。なんとかやってみます!
実は私も「ロシア帝国国歌」には以前から少し興味がありました。
ただ今どうしても手が離せなくて少し時間がかかりそうです。
1週間ほどお時間いただけますか?
完成したらここにリンクを貼っておきます。
ハク
greenpea様
管理人のハクです。
お待たせしました。ロシア帝国国歌「神よツァーリを護り給え」の日本語訳とカタカナ歌詞が完成しました。
このページの一番下にリンクを貼っておきますのでそこから移動してください。
実はロシア帝国国歌にはそれ以前にもう一つ「ロシア人の祈り」という曲があり、その曲との関係やチャイコフスキーの「序曲1812」との関連を調べていたら結構コンテンツが大きくなってしまいました。
少し長いですが気に入って頂けたら嬉しいです^^
ハク