【20分で坊っちゃん】あらすじ・内容・解説・登場人物・感想!【夏目漱石】

坊ちゃん」は夏目漱石(1867−1916)が1906年に発表した中編小説。処女作「吾輩は猫である」を執筆後、まもなくして書き上げた初期の作品です。いつの時代に読んでも楽しめる不思議な魅力をもった物語で、漱石文学の中でも最も人気のある小説の一つになります。
この「坊っちゃん」のあらすじ・内容・解説・感想を書いてみました。

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夏目漱石についてちょっと解説!

ここは興味のある方だけで結構です。

1867年生まれの夏目漱石は、東京帝国大学の英文科を成績優秀により特待を受けて卒業した後、愛媛松山中などの教壇に立ちますが、ここが後に「坊ちゃん」の舞台として描かれることになりました。1900年に文部省の給費留学生に選ばれ、2 年間の英国留学を経験した後、帝大教授として英文学を講義します。つまり漱石は相当優秀な人で、留学まで経験したエリートです。
1905年に友人の高浜虚子の勧めでホトトギスに発表した「吾輩は猫である」が大評判となり、続けて1906年、「坊ちゃん」などを発表することになります

このように「坊ちゃん」は漱石の実際の赴任経験をもとに描かれているため、そこに描かれているエピソードの中にも、彼の実体験に基づくものが多く含まれていると考えられます。そんなことを考えながら読んでみるのも面白いと思いますよ。

その後1907年に帝大教授の職を捨てて朝日新聞に入ると、1916年に亡くなるまで朝日新聞の小説記者として執筆活動に専念することになります。小説家として活動したのは40手前から49歳までの実質10年ほどになりすが、現在まで読まれ続ける名作を数多くこの世に残し、「国民的作家」とまで呼ばれました。
幅広い層から絶大な支持を受け、多くの後輩作家から慕われた漱石の死を悼む声は、同じ日に亡くなった日露戦争の英雄・大山巌元帥を凌いだとも言われています。

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「坊っちゃん」の簡単な内容と解説!

親譲りの無鉄砲で子供の頃から損ばかりしている坊ちゃんは、家族から疎まれていましたが、下女の清(きよ)だけは、坊ちゃんの曲がった事が大嫌いな性格を気に入り、可愛がっていました。東京の物理学校を卒業後、校長の勧めにより四国の旧制中学校の数学の教師として赴任(月給40円)します。
赴任先の蕎麦屋で、天ぷらを4杯、団子を2個食べたこと、そして温泉で泳いだことを生徒から冷やかされ、初めての宿直の夜に寄宿生たちから酷い嫌がらせを受けた坊ちゃんは、寄宿生たちの処分を訴えます。ところが教頭(赤シャツ)や彼に逆らいたくない教師たちは、坊ちゃんに責任を転嫁しようとする。それに対し筋を通す処分を主張したのは仲違い中の山嵐。結局生徒たちは坊ちゃんへの謝罪と厳罰を受け、坊ちゃんも当日無断で温泉へ外出していたため、出入り禁止の処分を言い渡されます。
やがて坊ちゃんは、赤シャツがうらなりの婚約者マドンナを横恋慕して、うらなりを左遷させたことを知って怒り、山嵐と意気投合。赤シャツたちを懲らしめるために策を練ります。ところが赤シャツの陰謀により山嵐は辞職。しかし芸者遊び帰りの赤シャツと野だいこを取り押さえた坊っちゃん達は、彼らに天誅を加える。
即刻辞職した坊っちゃんは、東京に帰り清(きよ)を下女に雇い、鉄道会社の技手(月給25円)となりました。

「坊っちゃん」の簡単な内容はこのようになります。

「坊っちゃん」というのは、年老いた下女(げじょ・雑事などを任せるために雇った女中のこと)清が主人公を呼ぶ時の呼び名であって、彼の名前は最後まで明かされません。
この「坊っちゃん」の特徴は、庶民的でてんこ盛りなストーリー展開。主人公の単純で正義感が強い江戸っ子な性格。そして時代を超えて共感できる普遍性。100年以上前のわからないことだらけの世界なのに、なぜかのめりこんでしまう不思議な魅力をもった文学作品です。

権力・人事権を持ったインテリで嫌な奴(赤シャツ)がいて、それにおもねって近づく人(野だいこ)もいれば、内心好きではないが保身のために逆らわない人(その他の職員たち)、そして露骨に逆らって排除されてしまう人(坊ちゃんや山嵐)もいる。
人が社会を作る限り、いつの時代も存在するこのような人間関係を背景に、「いたずらと不祥事」、「釣りと陰口」、「三角関係と左遷」、「喧嘩と和解」、「友情と義理人情」、「陰謀と報復」、「暴力沙汰と辞職」、などのてんこ盛りなストーリーを、主人公「坊ちゃん」が自身の「江戸っ子」な正義感に基づいて突き進んでいく、といった内容の物語。時代を超えて共感できる日本文学永遠の名作です。

 

登場人物の紹介!

〈坊ちゃんと家族たち〉

坊っちゃん
親譲りの無鉄砲で子供の頃から損ばかりしている主人公。名前は最後までわからない。東京の物理学校を卒業後、四国の旧制中学校の数学教師として赴任する。

兄ばかりを贔屓し、乱暴な坊ちゃんを可愛がらなかった。坊っちゃんのことを叱り、彼が家出をしているその最中に亡くなる。
おやじ
頑固だかえこ贔屓(ひいき)はしない人で、坊ちゃんのことは可愛がらなかった。母の死から6年後に卒中で亡くなる。

女のような性分でずるく、色が白い。弟の坊ちゃんとは仲が悪く、両親から可愛がられた。父親が亡くなると、家と財産を処分して坊ちゃんに600円を渡す。九州に就職し、その後坊ちゃんとは会っていない。
清(きよ)
坊ちゃんの家の年を取った下女(げじょ・雑事などを任せるために雇った女中のこと)。明治維新で落ちぶれた身分のある家の出身で、家族に疎まれた坊ちゃんの「曲がった事が大嫌いな性格」を気に入り可愛がった。兄が家を処分すると、裁判所の書記をしている甥のもとに身を寄せるが、最後に坊ちゃんが赤シャツたちを殴って東京に帰ってくると、再び坊っちゃんと一緒に暮らすことになる。

 

〈四国の中学校の教師たち〉

校長(狸)
色の黒い、目の大きな狸のような男。ことなかれ主義の優柔不断な人物。
教頭(赤シャツ)
坊っちゃんの学校で唯一の帝大卒の文学士(当時の学士の称号は旧帝大卒業者のみに授与された。しかも当時の旧帝大は東京と京都のみ。)。一年中フランネル(柔らかい毛織物)の赤いシャツを着ているインテリで嫌な奴。琥珀製のパイプや金側の懐中時計を持ち歩き、うらなりの婚約者マドンナを横取りして、うらなりを左遷させる。坊ちゃんと山嵐からは嫌われている。
吉川(野だいこ)
東京出身の画学教師で芸人風のお爺さん。赤シャツの側近で、彼の発言に徹頭徹尾賛同するイエスマン。陰湿かつ陰口を叩くタイプで、坊っちゃんからは赤シャツ以上に良く思われていない。坊ちゃんが出て行った直後にいか銀の下宿先に住み着き、最後は坊ちゃんと山嵐に赤シャツとともにボコられる。
堀田(山嵐)
会津出身の数学の主任教師。逞しいイガグリ坊主で、叡山の悪僧と言うべき面構え。公正な態度で自分の考えを主張できるタイプ。赤シャツの陰謀などにより坊ちゃんと仲違いする時期もあるが、自分の紹介したいか銀のウソを知ると坊っちゃんに謝罪して和解。さらに赤シャツのマドンナ横恋慕事件で坊っちゃんと意気投合。暴力沙汰で辞任に追い込まれるが、赤シャツを見張って天誅を下す。
古賀(うらなり)
英語教師。青く膨れた顔をしていたため、うらなりの唐茄子ばかりを食べているに違いないと坊っちゃんに思われ「うらなり」と名付けられる。お人好しで消極的な性格で、赤シャツに婚約者マドンナを横取りされたうえに、宮崎の延岡に左遷させられる。

 

〈四国のその他の登場人物たち〉

いか銀
山嵐が坊っちゃんに紹介した最初の下宿先の主人で骨董屋を営む。坊ちゃんに骨董品を売りつけようとするもうまくいかなかったため、坊ちゃんが威張り散らすというウソを山嵐に告げて坊ちゃんを追い出す。
萩野老夫婦
鍛冶屋町に住む元士族の老夫婦。いか銀に追い出された坊っちゃんが、うらなりの母に紹介してもらった2番目の下宿先。婦人は情報通で、坊ちゃんにマドンナ事件やうらなりの延岡転任事件の真相などを教える。
マドンナ
遠山という家の娘でうらなりの元婚約者。この辺りで一番の美人で、うらなりの父が亡くなり暮らし向きが悪くなると輿入れを延期し、赤シャツに手なづけられてしまう。坊ちゃんとの会話は特にない。
小鈴
赤シャツの馴染みの芸者で若くて美人。角屋で赤シャツと一緒のところを坊っちゃんたちが押える予定だったが、証拠を押さえることはできなかった。
赤シャツの弟
赤シャツの家に住む赤シャツの弟。坊ちゃんに学校で台数と算術を教わるできの悪い学生。祝勝会の余興に山嵐と坊っちゃんを誘い出すが、2人はそこで起こった生徒達の大ゲンカの扇動役として新聞屋に報道され、山嵐は辞任に追い込まれる。
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あらすじ!

「坊っちゃん」は、文庫本で170ページほどの少し長めの小説で、全部で11章から構成されています。ここではその章立てに基づいた少し詳しめのあらすじを紹介していきますが、その前に簡単な時系列をお話ししておきます。

第1章が、小学生から物理学校を卒業して赴任先の四国に旅立つ(24歳)までの話。
第2章から第11章までが、赴任先の四国での話ということになりますが、第4章の寄宿生たちの嫌がらせまでで赴任からだいたい20日ほど。第7章の赤シャツとマドンナを目撃する辺りで赴任から1ヶ月ほど。第11章の山嵐の辞任の辺りでも赴任から1か月ほど。と書かれています。正確な日数が書いてあるわけではありませんが、第11章の赤シャツたちを殴って帰ってくる時点でも恐らく赴任から2ヶ月以内と思われます。

少し長くなりますので、お急ぎの方は感想まで飛ばしてもらっても構いません。

 

1 「坊ちゃん」の無鉄砲な少年時代

「坊ちゃん」は、親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしていました
小学校の時、学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かします。同級生から「そこから飛び降りることはできまい。弱虫。」とからかわれたため飛び降りたのだが、親父から怒られると「この次は抜かさずに飛んで見せます。」と言い放ちました。
また親類からもらった西洋のナイフを友達に見せていた時、「何でも切れるのなら、自分の指を切ってみろ。」と言われて、本当に自分の手の甲を深く切りつけてしまいました。
またある時は、庭の栗を盗みに来た近所の少年を捕まえて取っ組み合った末に撃退しますが、垣根を壊してその晩母親が謝りに行くことになりました。
このように「坊ちゃん」は、無鉄砲な行いで子供の時から損ばかりをしていました。

そんな乱暴で無鉄砲な「坊ちゃん」を、父親は可愛がわらず、母親は女のようでずるい性格の兄ばかりを贔屓しました。その母は早くに亡くなりますが、兄とは仲が悪く10日に一度ぐらいの割合で喧嘩をします。
そんな中、年老いた下女(雑事などを任せるために雇った女中のこと)の清(きよ)だけは、彼を「坊ちゃん」と呼び、その曲がった事が大嫌いな性格を気に入って可愛がってくれました

母の死から6年後、父親も卒中で亡くなります。兄は家と財産を売り払って九州に就職し、奉公先を失った清は、裁判所の書記をしている甥のもとに身を寄せました。神田の小川町(おがわまち)に下宿していた「坊ちゃん」は、兄から600円(※諸説ありますが現在の600万円ほどになるようです。つまり当時の1円が現在の1万円ほど。)の資金を受け取ると、これを学資に東京の物理学校(※現在の東京理化大学の前身)に入学。その後兄に会うことはありませんでした。

3年後、あまり優秀ではありませんでしたが無事卒業。その8日後、校長に呼び出され「四国の旧制中学校(※当時は12歳から17歳まで5年間通った)で数学の教師がいる。月給40円(※約40万円ほど)だが、行ってくれないだろうか。」と頼まれると、教師になる気も田舎に行く気もなかったが、「行きましょう」と無鉄砲に即答。こうして住み慣れた東京を離れ、はるか四国まで赴くことになります。田舎に行くことに失望した清に対し、「来年の夏休みにはきっと帰る」と言って旅立ちました。

2 中学校到着とみんなのあだ名付け

汽車と汽船を使って四国に到着すると、旧制中学校近くの山城屋という宿屋へ泊まり、翌日中学校に出仕します。校長にあいさつに行くと、校長が教員控所(ひかえじょ)で「坊ちゃん」を学校の教員たちに紹介。ここで「坊ちゃん」は、彼らの第一印象をもとに勝手にあだ名を考えていきます。

校長は、色の黒い目の大きな狸のような男だったので「」。
教頭は、大学を卒業した文学士(当時の学士の称号は旧帝大卒業者のみに授与された。しかも当時の旧帝大は東京と京都のみ。つまりエリートです。)で、赤いフランネルのシャツを着ていたため「赤シャツ」。彼は一年中赤シャツを着ているらしい。
英語教師の古賀は、顔色が蒼く膨れていた。昔清がうらなりの唐茄子(とうなす)ばかり食べていると蒼く膨れると言っていた。この英語教師もうらなりばかり食べているに違いない。よってこの男は「うらなり」。
数学教師の堀田は、たくましいイガグリ坊主で 叡山の悪僧のような面構え。礼儀知らずだと感じたこの男は「山嵐」。癇癪持ちだが生徒には一番人望があるらしい。
同じ東京出身の画学教師吉川は、扇子をパチつかせた芸人風の老人で「野だいこ」(※要するに大した人物でもない人にごまをする太鼓持ち的な意味合い)。
……このように赴任先の教師に対し、勝手にあだ名をつけていきます。

同じ数学教師の山嵐の紹介で、宿屋の山城屋から町外れの丘の中腹にある骨董屋「いか銀」の家に移って下宿することになりました。山嵐は割と親切な人のようです。

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3 骨董の押し売りと生徒の嫌がらせ

「坊っちゃん」ばこの田舎の中学校に執着心はなく、いつでも辞める覚悟があったため、校長の狸も教頭の赤シャツもちっとも怖くありませんでした。しかし中学校で働き出してしばらく経つと、「坊ちゃん」は厄介な問題に悩まされることになります。その一つが宿屋の亭主の骨董の押し売りで、もう一つが学校の生徒の嫌がらせ

「坊ちゃん」は、山嵐の紹介で骨董屋「いか銀」の家に下宿していましたが、このいか銀が断る事に「坊ちゃん」の元にやってきては書画骨董を買わせようとします。ある時は掛け物を15円(※約15万円ほど)で買わせようとしたり、またある時は大硯(おおすずり)を30円で勧めてきたりと。この骨董責めに「坊っちゃん」はうんざりします。

もうひとつの生徒の嫌がらせはより深刻でした。ある日の晩、大好きな蕎麦屋を発見して蕎麦と天ぷら4杯を平らげると、それを学校の生徒に見られ、翌日黒板いっぱいに「天ぷら先生」と書かれからかわれます。腹が立った坊ちゃんは「生意気な奴には教えない」と言って帰ってしまいました。またある日には、温泉に行ったついでにちょっとお団子を食べて帰ると、翌日学校の黒板に「団子二皿7銭」と書かれます。さらに別の日、誰もいないことをいいことに温泉で泳いでみると、温泉で「湯の中で泳ぐべからず」と札が貼り出されます。実際に誰かに見られたわけではないにも関わらず、学校に行ってみるとやはり黒板には「湯の中で泳ぐべからず」と書かれてしまいました(※もしかしたら漱石も昔愛媛の生徒にからかわれたのかもしれませんね。)。生徒が何を言おうと、やろうと思ったことを止めるような「坊ちゃん」ではありませんが、生徒全体が「坊ちゃん」一人を探偵しているように思えて気持ちが悪くなりました。

 

4 宿直の夜に寄宿生たちと一騒動

中学校には夜間泊まって勤務をする宿直(しゅくちょく)があり、職員が順番にこれを勤めることになっていましたが、その宿直がついに「坊っちゃん」に回ってきました

宿直部屋は寄宿舎一階の西のはずれで、季節は秋だが西日をまともに受けて暑い。本来宿直中に外出して学校を留守にするのはまずいのですが、「坊ちゃん」は勝手に抜け出して温泉に行き、しかも帰りにばったりと校長の狸に遭ってしまいました。「あなたは今日は宿直ではなかったのですかねえ」という校長(狸)の当然の注意に対し、外出が悪いことだと思っていない「坊っちゃん」は、悪びれる様子もなく「ええ、これから帰って泊まります」といい捨てます。

宿直部屋に戻って夜寝る準備をしていると、何かが体中に飛びついてくる。起き上がってみると、布団の中からバッタが5・60匹飛び出してきました(※つまり生徒のいたずらです)。30分ほどかかって退治すると、寄宿生6人を呼び「なぜバッタも俺の床の中に入れた」と問い詰めます。しかし「入れてないものは説明しようがないがな」としらをきり通し、6人は悠然と引き上げて行きました。

その後宿直部屋で横になって清のことを考えていると、突然2階から3・40人程でどんどんと床を踏み鳴らす音が始まる(※これも生徒のいたずらです)。さっきの仕返しに生徒が暴れているのだと気付いた「坊ちゃん」が、寝巻きのまま2階に踊り上がると、急に静まり返って足音のしなくなりました。

夢だったのかと廊下の真ん中で考え込んでいると、また3・40人程が2階の床板を踏み鳴らし始める(※相当しつこいいたずらです。もしかしたらこれも漱石の実体験に基づいた話なのかもしれませんね。)。バカにしたやつらを引きずり出して謝らせるまではひかないぞと心に決めて駆け出したが、またも静まり返る。そして寄宿生達の寝室は鍵がかかって開かない。

勇気はあるが知恵のない「坊っちゃん」は、どうしてよいかわからなくなり、廊下の真ん中へあぐらをかいて夜があけるのを待つことにしましたが、ウトウト寝てしまいました。

ふと目が覚めると、生徒二人が目の前に立っいる。「坊っちゃん」は彼らを捕まえて宿直部屋に連れて行きました。

詰問を始めますが「知らんがな」を通すのみで決して白状しません。その内寄宿星たちが一人二人と宿直部屋へ集まってきました。50人余りを相手に1時間ほど押し問答をしていると、突然狸が現れます。学校の小使が騒動に気づいて校長を呼びに行ったようです。校長は、一通り「坊ちゃん」や生徒の言い分を聞いた後、「追って処分するまでは、今まで通り学校に出ろ。」と寄宿生たちを放免してしまいました。

 

5 赤シャツ、野だいこ、坊っちゃんの3人で海釣りに行く!

「坊っちゃん」は、教頭(赤シャツ)に誘われて、野だいこ(吉川)と三人で舟を使った海釣りに出かけることになりました。赤シャツはターナー・ラファエロ・ゴーリキーなどのカタカナの名前をやたらと使いたがる嫌味なインテリ。そして野だいこは赤シャツの発言に逐一追従する家来のような職員。2人はあの岩にマドンナ(後に登場するうらなりから奪った赤シャツの恋人)を置いて描こう、と盛り上がっている。「坊っちゃん」は(マドンナとは誰だ?)と少し気になるが、明らかに釣りに乗り気ではない。一匹だけ釣ると、二人をよそに一人仰向けになって大空を眺める。

すると赤シャツと野だいこの二人は、バッタだの、天ぷらだの、団子だの、「坊っちゃん」の陰口をたたいてクスクス笑いだす。その陰口は寝そべっている「坊ちゃん」の耳にも断片的に届く。さらに聞いていると、堀田(山嵐)が生徒の「坊っちゃん」へのいたずらを扇動した、とも解釈できる内容まで耳に届く(※後でわかりますがこれは2人を陥れる陰謀です)。

赤シャツは「坊っちゃん」に「生徒たちは君が来たのを本当は大歓迎しているんだが、いろんな事情がある。腹が立つこともあるだろうがここは我慢してくれたまえ。」「君の前任者がやられたから、気をつけてくれたまえ。」とこの間の寄宿生達との一騒動について言及した。

しかし「坊ちゃん」は明らかに歓迎されているとは思っておらず、自分が免職になるか、寄宿生たちをことごとく謝らせるか、のどちらか一つにするつもりでいました。

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6 寄宿生たちの処分会議

「坊ちゃんは」、野だいこが嫌いで赤シャツがきにくわない。赤シャツは、山嵐はよくない奴だから用心しろとほのめかしたのだが、山嵐が生徒を扇動するようには思えなかった。

その海釣りの翌朝、学校で「坊っちゃん」が山嵐に合うと、なぜか山嵐が怒っており「坊っちゃん」と口論になる
山嵐は、彼が「坊っちゃん」に紹介した下宿先・骨董屋「いか銀」から出ていけ、という。なんでも「いか銀」の女房に足を拭かせて威張り散らした、として骨董屋の亭主が困っているらしい(※後でわかりますが、これは坊っちゃんに骨董を売れなかったいか銀に騙されて山嵐が誤解しています)。「坊っちゃん」は全く心当たりがなかったのだが、その山嵐の態度に腹を立て、以前山嵐に奢ってもらった氷水代1銭5厘を突き返したうえで「骨董屋を出ていく」と断言する。(※山嵐が受け取らなかったため1銭5厘は山嵐の机上に置きっぱなしとなり、しばらくの間山嵐とは絶交状態になります。)

その日の午後、「坊ちゃん」に対して無礼を働いた寄宿生たちの処分についての会議が行われ、会議室に職員たちが集まった。「坊ちゃん」は、最初から生徒を謝らせるか辞職するかの二択しか考えていませんでした。
当然「坊ちゃん」と山嵐は険悪で睨みあっている。「坊っちゃん」は野だいこを嫌っているが、山嵐と野だいこも仲は良くなさそう。

会議では、まず校長(狸)が今回の騒動についての善後策を皆に求める。すると赤シャツは寄宿生の乱暴は自分の不行き届きとするも、生徒達の厳重な制裁はかえって未来のために良くないとして、寛大な取り計らいを求める、と発言。すると野だいこがこれに徹頭徹尾賛成。それに対し口下手な「坊ちゃん」が「私は徹頭徹尾反対です。……そんなとんちんかんな処分は大嫌いです。」と発言すると職員一同が笑い出す。

つまりこの学校の職員は、最初からほとんどが赤シャツ派であり、「坊っちゃん」の味方などいないのです。

そこに山嵐が奮然と立ち上がる。「私は教頭及びその他諸くんのお説には全然不同意であります。寄宿生一同を厳罰に処する上に、当該教師(坊っちゃん)の面前において公に謝罪の意を表せしむるのを当然の処置と心得ます。」

これに対し一同は、赤シャツの顔色を伺って何も言わない。しかし自分の思いを代弁してもらった「坊ちゃん」は、今までの喧嘩を忘れて山嵐にありがたい視線を送った。ところが山嵐は、それに対し知らん顔をして発言を続ける。「当夜の宿直員(坊っちゃん)は、宿直中外出して温泉に行かれたようであるが、あれはもってのほかの事と考えます。この点については校長から注意あらんことを希望します。」

要するに山嵐は、赤シャツにも「坊っちゃん」にもよらない公正な裁きを求めた、ということになります。これに対し確かに自分にも非があると悟った「坊ちゃん」は、その場で立ち上がって宿直中に温泉に入ったことを謝罪しました。
そして校長が「よく考えた上で処分しましょう」と言って会議は終わり。

その後寄宿生達は一週間の禁足になったうえ、「坊ちゃん」の前で謝罪をすることになりました

 

7 マドンナと赤シャツ

「坊っちゃん」は行くあてもなかったが、山嵐の要求通り即座に下宿先(いか銀の骨董屋)から出ていった。そして新たな下宿先を求めてうらなりの家に行くと、うらなりの母親に裏町の萩野という元士族の老夫婦を紹介され、その日から下宿することになります。するとこれまで下宿していた骨董屋に、なぜか翌日から野だいこが下宿を始めます。下宿先の萩野老夫人(50歳くらい)は上品な人で「坊っちゃん」にいろんな情報を教えてくれた

萩野老夫人の話によると、この辺りでは遠山という家にとても綺麗なお嬢さんが住んでおり、学校の先生は達はみんなマドンナと呼んでいるらしい。実はそのマドンナが、古賀(うらなり)先生の元へお嫁に行く約束があったのだが、昨年うらなりの父が亡くなり暮らし向きが悪くなると、マドンナの輿入れが延期されてしまった。そこに教頭(赤シャツ)が是非お嫁に欲しいと言ってきて、遠山の家に出入りをするようになり、お嬢さん(マドンナ)を手なずけてしまった。そんな古賀(うらなり)を気の毒に思った堀田(山嵐)が教頭(赤シャツ)のところに意見をしに行くと、赤シャツは「破約になればもらうかもしれないが、横取りするつもりはない。」と言い張り、それ以来赤シャツと山嵐は折り合いが悪くなったらしい。

「坊っちゃん」がいつものように温泉に行こうと汽車の停車場で待っていると、偶然うらなりが現れ「坊っちゃん」とお話をする。そこに突然、色の白いはいから頭の背の高い美人と45・6歳の婦人が切符を買いに現れる。マドンナとそのお母さんだ。それに気付いたうらなりは、2人のもとに挨拶に行き、3人で会話を始める。さらにそこになんと赤シャツも現れる。赤シャツはマドンナたち3人に挨拶をすると、「坊っちゃん」にも「君も湯ですか。」と話しかけてきた。マドンナとお母さん・赤シャツは汽車の上等に、うらなりと「坊っちゃん」は汽車の下等に乗った。「坊っちゃん」は、自分の許婚が他人に心を移したうらなりが気の毒でたまらなかった。

温泉からの帰り、「坊ちゃん」は夜道で赤シャツとマドンナが二人で歩いているのを目撃する。「坊っちゃん」に気づいた赤シャツは急に方向を変えて女と立ち去っていった。
(※要するにこっそりデートをしていたが、「坊っちゃん」に見られて逃げたということです)

「坊ちゃん」がこの街へ来て1ヶ月ほどが経過していました。

 

8 うらなりの左遷

「坊っちゃん」は、会議では赤シャツ派に反して生徒厳罰論を唱え、うらなりのために赤シャツに談判をした山嵐に対して感心していたが、下宿先を出ろと言われた時に氷水代の一銭五厘を突き返して以降、絶交状態になっていた。それに対して表裏が激しく信用していない赤シャツとは口を聞いていた。

そんなある日、「坊ちゃん」は赤シャツに呼ばれて赤シャツの家に行く。赤シャツは、古賀(うらなり)君が彼自身の都合と希望により日向の延岡(のべおか)に報酬が上がったうえで転任することになり、その代わりに報酬の安い人がこの学校に来るため、「坊っちゃん」の月給を上げてあげようと持ちかけてきました。延岡は、宮崎の中でも大変な山奥で、到底人が好んで行くところとは思えない場所です。

この話を聞いて一旦下宿先に帰った「坊っちゃん」は、萩野老婦人からうらなりが本当は月給が増えるより母も屋敷もあるここにいたいのであって、延岡行きは実質命令であることを聞かされる。

赤シャツの卑怯な策略に対して怒りと正義感に燃えた「坊ちゃん」は、その日のうちにもう一度赤シャツの家に行き、月給を上げてもらうという話を断ってしまいました。(※そんな汚れた金はいらねぇ!という坊ちゃんの江戸っ子気質です。)

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9 うらなりの送別会

うらなりの送別会の日、学校へ行くと山嵐が突然謝罪をしてくる。なんでも、前の下宿先のいか銀が「坊ちゃん」が乱暴して困るから出て行くように山嵐に頼んだから「坊っちゃん」に出て行くように告げたのだが、後から聞いてみると、いか銀が「坊っちゃん」に骨董品を売りつけようとしたところ「坊ちゃん」が取り合わなく儲けがないため作り話をして追い出そうとしたことが分かったらしい。

これを聞いた「坊ちゃん」は、山嵐の机の上におきっぱなしだった一銭五厘を取って自分の財布にしまい、「やっぱり君に氷水をおごってもらうことにする」と言った。これを聞いた山嵐は大声で笑い、二人は仲直りした

意気投合した二人は、うらなりの送別会前に「坊っちゃん」の下宿先で作戦会議を開く。今度の事件は、赤シャツがうらなりを遠ざけてマドンナを手に入れる策略に違いない。赤シャツと野だいこに鉄拳制裁を加えよう。そのためにあいつらの悪いところを見届けて現場で抑えよう。その前にまずは、今日の送別会で山嵐が演説でうらなりを大いに褒めることにした。

そしてまもなくして、この辺りで一番の料理屋で送別会が始まった。まずは幹事と校長の狸、教頭の赤シャツが送別の辞を述べる。3人とも申し合わせたように、うらなりが良教師で好人物であると、心にもないお世辞で褒めちぎった。赤シャツに至っては、「この良友を失うのは自分にとって大なる不幸である」とまで言ってのけた(自分で左遷させておいて…)。それに対して山嵐は「心にもないお世辞をふりまいたり、美しい顔をして君子を陥れたりするハイカラ野郎が一人もいない延岡の地に、1日も早く去られることを希望します。」と赤シャツ達を演説で攻撃。

宴がたけなわになって酒が回ると、みんながどんちゃん騒ぎを始める。そこに芸者たちが入ってきてそのうちの一人が赤シャツに挨拶をする。すると赤シャツは知らん顔をして立ち上がり、座敷を出て行った。
(※後に分かりますが、彼女は小鈴という名前の赤シャツの馴染みの芸者。教員である以上芸者遊びなどはもってのほかなのですが、赤シャツはその教員の中でも指導的地位にある教頭で、生徒の目につく蕎麦屋で飲食しただけの坊ちゃんに対しても注意した人です。)

その中でうらなりは、一人手持ち無沙汰で下を向いて考え込んでいる。みんな酒を飲んで遊びたいのであってうらなりを送別する気などはなかった。うらなりのことが気の毒でたまらなかった「坊っちゃん」は、ハメを外しまくっている野だいこに対して、宴の混乱に乗じてげんこつを一発食らわしてきた。

 

10 赤シャツ退治計画と大喧嘩

祝勝会で学校がお休みの日、「坊っちゃん」が下宿先で清や庭の蜜柑のことを考えていると、山嵐が牛肉を持って現れる。そして二人は、牛肉を食べながら赤シャツを懲らしめる案を練る。なんでも赤シャツは、送別会の時にいた芸者のうちの一人(小鈴)と仲が良く、人に隠れて温泉の街の角屋という宿屋で、その芸者と会見しているようだ。だからその角屋の前の枡屋という宿屋から見張り、赤シャツがその芸者を連れて入り込むのを押えよう

二人が下宿先でこんな計画を立てていると、生徒の一人が祝勝会の余興を見に行かないかと山嵐を誘いに来る。生徒は赤シャツの弟だった。そして山嵐に誘われて「坊っちゃん」も余興を見物に行く。余興には花火や踊りが催され大勢の客が参加したが、突然「坊っちゃん」の中学校の生徒達と師範学校の生徒達が大喧嘩を始めてしいました。山嵐と「坊っちゃん」はこの喧嘩を止めに入りますが、止められず2人とも怪我をして服もズタズタになります。巡査たちが現れると両生徒とも一気に引き上げてしまい、残された山嵐と「坊っちゃん」だけが捕まって警察に連れて行かれました。ですが事の顛末を話すとその日のうちに下宿先へ帰されます。

 

11 赤シャツに天誅を下す!

翌朝目が覚めると、昨日の中学校と師範学校の生徒達の大喧嘩が新聞に載っている。しかもなんと、山嵐と「坊っちゃん」が生徒たちを指揮して扇動したことになっており、2人がボロクソに書かれている。学校へ行くと野だいこが冷やかしに来るのに対し、赤シャツは「僕の弟が堀田(山嵐)君を誘いに行ったからこんなことになった。申し訳ない。」と謝罪に来る。二人は校長と教頭に事の顛末を説明して新聞の記事が間違っていることを納得させ、学校から新聞屋へ記事の取り消しを要求することを確認した。

これで一応新聞屋が悪いということになったのだが、その日の帰り山嵐は「赤シャツは臭いぜ。昨日弟を使って僕らは喧嘩の中に誘い出したのはあいつの策だ。そして赤シャツが新聞屋に偽の情報を流したんだ!」と「坊っちゃん」に忠告した。単純な「坊っちゃん」は、そんなことには気づいていなかった。

次の次の日になって記事の取り消しが小さく出るが、新聞屋からは正誤も謝罪もない。

それから三日後、この暴力事件を理由に山嵐だけが校長から辞表を出せと要求された。どうやらこれは赤シャツの差し金らしい。古賀(うらなり)の後任がまだ到着していない状態で山嵐と「坊っちゃん」の両方を学校から追い出してしまうと、教師が足りず事業に差し支えが出てしまうため、知恵の回る山嵐だけをとりあえず追い出そうという魂胆らしい。それに怒った単純な「坊ちゃん」は、翌日「なぜ辞表を堀田(山嵐)には出させて私には出させないのですか?私も辞表を出しましょう。」と校長に談判をしますが、「代わりが来るまで続けてくれ」と頼まれて考え直します。(※またしても「坊っちゃん」の江戸っ子気質が炸裂したようです)

そして山嵐は要求通り辞表を提出。学校から去って浜の港屋へ行きますが、人知れず引き返し温泉の町の枡屋の2階に潜み、向かいの角屋に芸者と来るはずの赤シャツの監視を始めます。赤シャツの芸者遊びの現場を押さえて、天誅を加える計画を実行に移すために。

「坊っちゃん」も加わり毎晩監視を続け、ついに8日目夜7時半頃、山嵐は小鈴という目当ての芸者たち2人が角屋に入ったのを確認した。しかし赤シャツは確認できなかった。狡猾な男だから、芸者を先によこして後から忍んでくるかもしれない、と引き続き赤シャツが来るのを向かいに枡屋から監視する。そして夜10時を過ぎた頃、ついに赤シャツと野だいこの2人が角屋に入っていくのを確認した。

「坊っちゃん」達は、2人が角屋から出てくるところを押さえなければならないため、引き続き待ち続ける。そして朝5時とうとう赤シャツと野だいこが角屋から出てくる。「坊っちゃん」達は2人の後をつけ、人家の無い町外れまで来ると赤シャツの肩に手をかけた

「教頭の職を持つ者が、なぜ芸者と一緒に宿屋へ泊まり込んだ?貴様の馴染みの芸者が角屋へ入ったのを確認した。」と山嵐が問いただすと、赤シャツは「芸者を連れて僕が宿屋へと泊まったという証拠がありますか?僕は吉川君と2人で泊まったのだ。」としらを切った。それに対し山嵐は「黙れ」と赤シャツにげんこつを食らわす。「理非を弁じないで腕力に訴えるのは無法だ。」と訴える赤シャツに対し、山嵐は「無法でたくさんだ。」とポカポカ殴った。同時に「坊っちゃん」も野だいこを散々に殴りつけた。そして二人は「もうたくさんだ。」と降参した。

「貴様らが奸物だから天誅を加えた。俺たちは逃げも隠れもしない。警察に訴えたければ勝手に訴えろ。」2人はこう言って去っていった。
(※結局「坊ちゃん」たちは、赤シャツ達が芸者と宿屋で泊まったという証拠を掴んだわけではありません。それにも関わらず、一方的にボコって立ち去ったことになります。)

「坊っちゃん」は朝7時前に下宿先に帰るとすぐに荷造りを始め、おばあさんに下宿代を払ってそのまま引き払った。山嵐のいる浜の港屋へつくと校長宛に辞書を郵送し、午後2時まで寝る。警察は来なかった。どうやら赤シャツも野だいこも訴えなかったようだ。というか暴力事件として二人を訴えると、自分たちの芸者遊びがバレる恐れがあったため訴えることができなかったらしい。
「坊っちゃん」と山嵐の2人は、その夜6時の汽船で東京へと旅立った。「坊っちゃん」は新橋で山嵐と別れ、そのまま清(きよ)に会いに行った。涙をポタポタと落として喜ぶ清に対し、「もう田舎へは行かない。東京で清と家を持つんだ。」と言ってあげた

その後ある人の紹介で、鉄道会社の技手となった。月給25円(約25万円ほど)で家賃は6円だ。

清はその家に満足していたが、今年(四国から帰ってどれだけの年月が経ったかは不明)の2月に肺炎で亡くなった。清は死ぬ前日、「坊っちゃん」のお寺にうめてください。お墓の中で「坊っちゃん」が来るのを待っています、と言いました。


こちらは中田先生のフィルターを通した「坊ちゃん」。特に最後の分析が面白いです。お時間のある方はこちらもどうぞ。

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感想

「坊っちゃん」は面白い。100年以上前に書かれた本だから、登場人物たちの身の回りにあるものや出来事、彼らの使う比喩や習慣、言葉遣いなどは、正直理解に苦しい。同じ国の小説であっても時代が100年もずれてしまえば、一般の人たちにはわからないことだらけになってしまう。僕は古い本を読むのが割と好きな方だが、それでもついていくのが大変でわからないことだらけだった。

でも不思議なことに、分からないことばかりなのになぜか痛快で面白い。それは漱石が、いつの時代も変わらない人間社会の本質を庶民の目線で描いているからだと思う。

権力・人事権を持ったインテリで嫌な奴(赤シャツ)がいて、それにおもねって近づく人(野だいこ)もいれば、内心好きではないが保身のために逆らわない人(その他の職員たち)、そして露骨に逆らって排除されてしまう人(坊っちゃん・山嵐)もいる。

おそらく僕たちの遠いご先祖たちが、天皇家を中心に一つの国家としてみんなで集まった時には、既にこういった人間関係が存在していたことでしょう。そしてこの構図は、国家と権力が存在し続ける限り、なくなることは永遠にないのでしょう。

だから漱石の「坊ちゃん」は、いつの時代に読んでもおもしろいのだと思う。権力の元に生きる普遍的な人間社会を舞台にしているからこそ、身の回りの習慣や出来事、言葉遣いがわからなくてものめり込んでしまうのでは何かと思う。

 

個人的に特に面白いと感じているところが、漱石は東京帝国大学の英文科を特待を受けて卒業するほど優秀な人間(高校以降は主席)だったにも関わらず、主人公「坊っちゃん」が成績も頭もちっとも良くないところ。ただ無鉄砲で正義感が強く、曲がったことが大嫌いなだけなところ。

これが同じエリート高学歴作家の森鴎外となると話が違ってくる。「舞姫」のように主人公は鷗外級のエリートが多く、それは庶民目線で読めるものでもなければ共感を覚えるのも難しい。
「舞姫」のあらすじと感想文を読んでみる

逆にこんな高学歴なイケメンが、よくこのような庶民的で共感できるお話を書けるもんだ、と驚かされます。漱石の作品には、並外れた想像力とオリジナリティ、そして新しい文学創作への強い情熱を感じます。

出典:ウィキペディア 愛媛松山中の教員時代の漱石(20代後半) 反則級のイケメンでしょ?

「坊っちゃん」は、理不尽な理由でうらなりが左遷される影響で自分の給料が上がることを知ると、「じゃあ俺はそんな増給いらない!」と言い、理不尽な理由で友人の山嵐だけが辞表を要求させられたことを知ると、「じゃあ俺も辞める!」と言い出します。つまり曲がった事が大嫌いな「江戸っ子気質」。

誰もそこまでやらないけど、その気持ちみんなが分かってます。ある程度生きてみれば、誰もが「じゃあ俺も…!」と一度くらいは思ったことがあるはずです。
だから日本中のみんなが共感できるのではないかと思う。「坊っちゃん」は、いつの時代のどこにでもいる僕達庶民の一人で、ただ自分の感情と正義感だけに基づいて行動する、僕達の代表なのだ。

そして終わり方も面白い。山嵐と赤シャツ達に制裁を与える計画を立てるが、肝心な証拠である芸者と一緒にいるところは押さえられていない。にも関わらず、結局力任せにボコって一方的に辞表を送りつける。

確かに天誅を与えて痛快だけど、インテリな赤シャツを論破する訳でも法的に追い詰めるわけでもない。要するにクールでもスマートでもなく江戸っ子で庶民的なんだよね……漱石インテリでイケメンなのに……。彼が同時代のみんなから愛されていた理由がよく分かる気がします。

さらに綺麗な奥さんを娶って終わるわけでもなく、大好きな老下女(女中)の清(きよ)と一緒になって終わる。「坊っちゃん」はどこまで行っても嫌味がなくて清々い。嫉妬できる要素が見つからないのだ。

 

今から200年経って、たとえこの国が僕達の想像すらできない超ハイテクな世界になっていたとしても、だぶん「坊っちゃん」は、日本文学の名作として君臨し続けているだろう。そしてわからないことだらけの300年前の小説に、「じゃあ俺も…!」っと、僕らの子孫たちがのめりこんでいるだろう。

僕はこの本を読んでこんなことを思いました。

彼がなぜ「国民的作家」と言われるのか、よく分かった気がします。

もしかしたら200年後の僕たちの子孫たちが使う紙幣には、また再び彼の肖像が描かれているのかもしれませんね。

 

夏目漱石の他の作品についても書いてみましたので、お時間があったら読んでみてください。
 
それとも他の本を読んでみる?

 

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