【90分で古事記⑧】ニニギの天孫降臨と日向三代 あらすじ内容を解説!

 
90分で古事記  8/9回目(約4500字)
古事記上巻のあらすじ内容を9回でご紹介!
邇邇芸命  天孫降臨  日向三代
 
オオクニヌシが完成させた葦原中国(出雲)は、多くの失策を重ねながらも 最後はタケミカヅチの圧力に屈し、 高天の原(大和)の統治を受け入れることになりました。
今回は、その統治者としてアマテラスの子孫を地上へと派遣する天孫降臨(てんそんこうりん)の場面になりますが、 オシホミミが0歳の息子ニニギに任務を譲るという、明らかに不可解な人材選定が行われています。 これは編纂当時の現実の皇位継承問題を反映し、その後の天皇家の方向性にも影響を与えたと言われています。 その辺りを意識して読み進めてみてください。
 
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ニニギノミコトと天孫降臨

場面は前回のタケミカヅチの葦原中国平定から高天の原に戻ります。
 
主な登場神様
アマテラス(イザナギの子、 高天の原の統治者)
タカミムスヒ(造化三神の偉い神様)
オモイカネ(知恵の神、タカミムスヒの子)
オシホミミ(アマテラスの子)
ヨロヅハタトヨアキツシヒメ(タカミムスヒの子でオシホミミの妻)
ニニギ(オシホミミとアキツシヒメの子)
赤字の神様はとても重要。オレンジの神様はちょっと重要です。
 
※ ある程度割愛していますが、概ね原文に沿ったあらすじです。
 
アマテラスタカミムスはアメノオシホミミ(アマテラスの子)に命令します。「 葦原中国(あしはらのなかつくに)平定の報告がありました。 以前言った通り、あなたが降って統治しなさい。
 
 
 これに対しアメノオシホミミは答えます。「 私が準備をしていたら子供が生まれました 。名前をニニギノミコトと言います。 この子を地上に降ろしましょう。
(つまり0歳の息子に職務を丸投げしたことになります。)
 
 
そしてその提案通りにニニギに対し「 葦原中国はあなたが統治すべき国です。 地上に降りなさい 。」と命令が下されました。
( オシホミミの妻のヨロヅハタトヨアキツシヒメはタカミムスヒの娘になります。)
 

〈 オシホミミの職務放棄のからくり〉

アマテラスは以前から、息子のオシホミミに葦原中国の統治を任せる方向で話を進めてきました。 ところがオシホミミは、生まれたばかりの息子に職務丸投げという信じられない暴挙を行います。 これには当時の権力者「藤原不比等(フヒト)」が絡んでいると見られています。 編纂当時、 第41代持統天皇(ジトウ)の子である草壁王子(クサカベノミコ)が若くして亡くなりました。 本来であれば持統天皇と血の繋がりのない天武天皇の子供が即位する ことになっていましたが、 持統天皇の孫(草壁王子の子)にあたる軽皇子(カルノミコ:7歳)を即位させるために、 フヒトが孫が皇位を継承するエピソードを、神話に盛り込むよう画策したのではないかとも言われています。
  現実の天皇家 神話
祖母 41代持統天皇 アマテラス
草壁王子(夭折) オシホミミ
42代文武天皇(軽皇子) ニニギ
 
その結果、当時最年少の 第42代文武天皇(モンム:15歳)が誕生し、 天皇の位は実力ではなく血統で決まることが定着(それ以前は天皇になるためには三十歳以上で執政経験が必要とされていました)。権威を担う天皇と、政治の実権を担う官僚の住み分けが図られ、皇位継承は安定化したとも言われています。
 
……とは言え、生まれたばかりの子に全て任せるのは、 いくらなんでもちょっと無理のある話ですよね。
 
 
ニニギと共に五伴緒(イツノトモノオ)を 一緒に降らせました。
 
※五伴緒(天児屋根命 (アメノコヤネ)、 布刀玉命(フトダマ)、 天宇受売命(アメノウズメ)、伊斯許理度売命(イシコリドメ)、玉祖命(タマノオヤ)) 天岩屋戸で登場する神様達です。
 
 
さらに八咫鏡(やたのかがみ)、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)(三種の神器)オモイカネ、タヂカラオを加えてアマテラスが言います。「 この鏡を私の魂として拝み奉りなさいそしてオモイカネは祭祀と政治を担当しなさい。
(つまり権威としてニニギが君臨し、政治の実権はオモイカネが担当しなさい、という指示。また、三種の神器の中でも鏡が別格であることも伺えます。)
 
 
天津神(高天の原の神々)がニニギに降臨を命ずると、ニニギは 幾重にもたなびく雲を押し分けて、 天の浮橋から日向(ひむか)の高千穂(たかちほ)へと降臨しました。
 
宮崎県高千穂町
 
そしてニニギは「 この国は韓国に向かい、朝日がまっすぐ指し、 夕日が照らす国である。 良い土地だ。」と言い、 太い柱を立て、高天の原に届くほどの大きな宮殿を建てて住みました。
(繰り返しますがニニギは0歳です…)
 
 
 
この地を選んだのは、祖母のアマテラスが禊によって誕生した地だからとも言われています。ニニギからホオリ、ウガヤフキアエズと続く3代を日向三代といいますが、 地上世界の有力な神様(山や海)との婚姻を通じて、地上の統治者としての準備が着々と進めてられて行くことになります。 この先はその辺りを意識して読んでみてください。
 
アマテラスから神武天皇の系譜
 
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コノハナノサクヤビメ

出典:ウィキペディア(高千穂町国見が丘のニニギノミコト石像)
 
天孫降臨によって 高天の原(天上)のニニギが 葦原中国(地上)に降り立ちました。 この段階ではニニギはあくまで神ですところがニニギのある行いによって、 神の特権である不老長寿を徐々に失い、 神の人間化が始まることになります。 少し残念なお話ですが、神と天皇を結びつける重要なエピソードです。
「天皇家は高天の原の高貴な神の血を持っていたが、 残念ながら永遠の命を失ってしまった。 でも神の末裔であることには変わりない」…と古事記は言いたいようです。
 
主な登場神様
ニニギ(アマテラスとタカミムスヒの孫)
オオヤマツミ(山の神で国津神の有力な神様 イザナギの子)
コノハナノサクヤ(オオヤマツミの美しい娘)
イワナガヒメ(オオヤマツミの醜い娘)
 
(降臨時からある程度時間が経過していると思われます)
 
 
ここでニニギは、とても美しい娘に出会い尋ねました。「 あなたは誰の娘ですか?
 
 
すると娘は答えます。「オオヤマツミの娘、花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤビメ)と申します。
 
 
ニニギは聞きます。「 あなたに姉妹はいますか?
(なぜいきなりそんな質問を…)
 
 
コノハナノサクヤが答えます。「 姉のイワナガヒメがいます。
 
 
ニニギは言います。「 あなたと結婚したいのだが、どうでしょうか?
(…顔だけ…ですか?…いくらなんでも早すぎません…?)
 
 
コノハナノサクヤが答えます。「 私には答えられません。 父のオオヤマツミに聞いてください。
(オオヤマツミはスサノオにも娘や孫を嫁がせています。将来有望男子に、偶然を装い自分の娘たちを次々と嫁がせる、 やり手の政略結婚家との噂も…)
 
 
さっそくオオヤマツミに 使いを送ると、オオヤマツミは大変喜び、 姉のイワナガヒメとお祝いの品を添えて 差し出してきました。
(当時は、一人の男性に姉妹が嫁ぐことは、よく行われていたそうです。より確実に子孫を産ませることができると言われています。確かにやり手ですね。)
 
 
しかしイワナガヒメは甚だ醜かったため、ニニギはを送り返してしまいました。
(ニニギは「権威」を担当…ではなかったのですか…? 行動が薄っぺらい……)
 
 
そして妹のコノハナノサクヤだけを泊めて、一晩の契りを結びました。
(皇室の祖先となる方なので、もうちょっといい話にしていただきたかったです……)
 
 
恥をかかされ怒った親のオオヤマツミノカミは「イワナガヒメを側に置いておけば、天つ神の御子の命は石のように変わらず動きませんように。コノハナノサクヤビメを側に置いておけば、 木の花が咲くように栄えますように。 と誓約をかけました。イワナガヒメを返したあなたの命は、今後桜の花のように脆く儚いものになるでしょう」と言いました。
 
 
これ以後、天皇の寿命が短くなってしまいました。

 

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〈古事記と永遠の命〉

このエピソード以後、 永遠の命を持つとされていた神の子孫の天皇家に、寿命が設けられることになります。つまり天皇家の寿命が短くなったのは、ニニギの「面食い」と「山の神の呪い」が原因だったということなのですね。 しかし古事記を読んでみると、いきなり普通の人間と同レベルの寿命になるわけでもありません。ニニギの子ホオリは580歳まで生きたそうです 。初代神武天皇は137歳(日本書紀は127歳)まで生きており、歴代天皇の中でも最初期の方々は100歳以上生きた方も少なくありません。 寿命は徐々に失われていった、 と古事記は言いたいようです。 
なお、古事記では神以外の普通の人間は、「イザナミの呪い」によって寿命が設けられている ことになっています。
 
 

〈旧約聖書と永遠の命〉

旧約聖書には神様は一柱しか登場しません。 世界の創造主であり不老不死です。 神によって創造された人間には当然最初から寿命がありますが、 実は最初期の人間はかなりのご長寿です。 初代アダムは 930歳 10代目のノアは950歳まで生きたことになっています。 これが20代目のアブラハムになると175歳。年代の特定できる34代目のダビデになると80歳と、現実的な数字になっていきます。
 
実在の確認できない人物たちは、歴史を長くするため?ご長寿にならざるを得ない運命にあるということなのでしょうか……
 
 
その後しばらくして、コノハナノサクヤがニニギの所へやってきて言います。「 出産が近くなったのでやってきました。 天津神の御子を勝手に産むわけにはいきません。」
(自分から声をかけておきながら、 一晩過ごしてそれっきりだったみたいです……)
 
 
するとニニギが言います。「サクヤヒメ、 一晩で妊娠したというのか? それは私の子ではない! 国つ神の子だろう!
(まさかの認知拒否です…もはやフォローする気になれない……)
 
 
これに対しコノハナノサクヤが答えます。「 私の子がもし国つ神の子であれば無事生まれないでしょう。もし天つ神の子であれば無事生まれるでしょう。
(宣言通りになれば勝ち、失敗すれば負けという誓約ですが、失敗は死を意味します。)
 
 
このように宣言すると、 大きな扉のない小屋を建て、 中に入り火をつけて、炎の中無事出産をしました。
( 当時はこうやって疑いを晴らすしかなかったのでしょうが…ニニギも罪なことをしますよね…)
 
 
火の中で生まれた三人の子は、火照命(ホデリノミコト)火須勢理命(ホスセリノミコト)火遠理命(ホオリノミコト)と名付けられました。
 
 
 
 
ニニギの行いによって永遠の命を失ってしまいましたが、 コノハナノサクヤを娶ることにより、「山の神」の強い影響力を得ることができたことになります。
ですが、ニニギの「面食い」と「認知拒否」は日本人として正直見たくなかったです…
そもそも 政治の実権のオモイカネに対し、ニニギは権威を担当していたはずです。 ちょっと自覚足りないですよね。
できることなら、もう少しいいエピソードにしていただきたかったです……
 
 
次回 第9回は海幸彦と山幸彦、そして初代神武天皇となるカムヤマトイワレビコの登場です。
 

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