【5分で注文の多い料理店】あらすじ・内容・解説・感想・考察!【宮沢賢治】

注文の多い料理店」は、1924年に発表された宮沢賢治の短編童話。賢治のいわゆる代表作の中では、唯一の生前発表作になります。
この「注文の多い料理店」について、あらすじ・内容・解説・感想・考察を書いてみました。

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まずは簡単な内容と解説!

あまり知られていませんが、「注文の多い料理店」という言葉には二つの意味合いがあります。一つは短編童話としての「注文の多い料理店」もう一つは短編集としての「注文の多い料理店」。実は「注文の多い料理店」という短編童話は、1924年に出版された9つの作品からなる「注文の多い料理店」という短編集の3番目に収録された童話になります。
その9つの作品は次の通り
①どんぐりと山猫
②狼森と笊森、盗森(おいのもりとざるもり、ぬすともり)
注文の多い料理店
④烏の北斗七星
⑤水仙月の四日
⑥山男の四月
⑦かしわばやしの夜
⑧月夜のでんしんばしら
⑨鹿踊りのはじまり

この短編集「注文の多い料理店」には「イーハトーブ童話」(※イーハトーブとは岩手県をモチーフとした理想郷を意味する賢治の造語)という副題がついており、1924年に、ほぼ賢治の自費出版で1000部が出版されました。この童話集の「序」によると、これらの作品の成立自体は1921年から翌年にかけて。さらに当時の広告によれば、同様の短編集を全部で12巻刊行する予定で、短編集「注文の多い料理店」はその第一作目として構想されていたようです
ところが、単価が高かったうえに作品の評判も良くなく、あまり売れなかったみたいです。想定外の事態に自信を失くした賢治は、その後の童話集の発売を取りやめてしまいました。「注文の多い料理店」というタイトルが、飲食店の商業テキストと誤解されてしまったため売れなかったとも言われています。確かにちょっと微妙なタイトルかもしれませんね……。

そのため、賢治の生前に出版された単行本は、同じ1924年に刊行された詩集「春と修羅」と短編集「注文の多い料理店」のみ。そして賢治は、自身の作品をほとんど世に出すことなくこの世を去りました。賢治の作品の多くは、友人が彼の死後に発見して世に出したものになります。特に「銀河鉄道の夜」「雨ニモマケズ」「永訣の朝」「風の又三郎」などのいわゆる宮沢賢治の代表作は全て死後発表であるため、生前発表の代表作としては「注文の多い料理店」が唯一ということになるようです。

なお短編集「注文の多い料理店」は、あまりにも売れなかったため最終的に賢治が200部を自費で買い取り、それでも売れ残った分は近所の子供に配ったそうです。
今でこそ絶大な人気を誇る宮沢賢治文学ですが、当時は随分苦労されたようですね。

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あらすじ!

1 山奥で迷子になる二人の若者

二人の若い紳士が、イギリスの兵隊の姿をして、鉄砲を担いで、白熊のような犬を2匹連れて、山に狩猟にやってきました。ところがこの日は獣を一匹も見かけません。そしてだいぶ山奥まで来ると、案内役の鉄砲撃ちとはぐれてしまいます。さらにその連れてきた犬が、2匹一緒にめまいを起こして、泡を吐いて死んでしまいました。

「僕は2400円の損害だ」(※諸説ありますが、1921年当時の1円は現在の2500円ほど。2400円は現在の600万円ほどの価値になります。)と一人の紳士が言うと、もう一人の紳士が「僕は2800円の損害だ。」と悔しがります。(※2人はお金の損失の話しかしませんでした。)

2人は寒くてお腹がすいたので、昨日泊まった宿屋に戻ろうと思いましたが、困ったことに道に迷ってしまいました。すると風が吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はカサカサ、木はごとんごとんと鳴りました
(※これと全く同じ描写が、最後に西洋料理店が消滅する際に再び描かれます。この「風が吹いてきて…」という描写が、異世界との出入り口であって、現実世界との切り替えのスイッチになっているのかもしれません。)

二人がふと後ろを見ると、立派な一軒の西洋造りの家があり、その玄関にはこのような札が出ています。

RESTAURANT WILDCAT HOUSE
西洋料理店 山猫軒

 

2 6つの扉と12の注文

山猫軒の玄関は煉瓦造りの立派なもので、2人が玄関の前に立つと、ガラスの開き戸に金文字でこのように書いてあります。

どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません。

二人は喜んで「この家は料理店だけどただでご馳走するんだぜ。決してご遠慮はありませんというのはその意味だ。」と言い、一つ目の戸を押して中に入りました。するとそこは廊下になっており、そのガラス戸の裏側には金文字でこう書いてあります。

ことに肥(ふと)ったお方や若いお方は、大歓迎いたします。

2人とも肥って若かったため「ぼくらは大歓迎されている」と大喜びしました。

廊下を進んでいくと、今度は水色のペンキ塗りの扉がありました。どうしてこんなにたくさんの戸かあるのか不思議に思いましたが、「これはロシア式だ。寒い所や山の中はみんなこうさ。」と言って扉を開けようとしました。すると上に黄色い字でこう書いてあります。

当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください。

2人は「なかなかはやっているんだ。」と言ってその2つ目の扉を開けると、その裏側にはこのように書いてあります。

注文はずいぶん多いでしょうが、どうか一々こらえてください。

「これはきっと注文が多くて支度が手間取るけれども、ごめんくださいということだ。」2人がこのように解釈すると、うるさいことにまた扉があり、今度は鏡とブラシが置いてあります。3つ目の扉には赤い字でこのように書いてありました。

お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落としてください。

これは見た2人は「これはもっともだ。きっとよほど偉い人たちが、たびたび来るんだ。」と言って、髪をきれいにして靴の泥を落とします。するとブラシがかすんでなくなり、風が室内に入ってきました。二人はびっくりしましたが、3つ目の扉を開けて次の室に入って行きました。するとその扉の内側にこのように書いてあります。

鉄砲の弾をここへ置いていってください。

「なるほど、鉄砲を持ってものを食うという法はない。」と二人は納得して鉄砲を台の上に置きました。すると今度は黒い扉(4つ目)があります。

どうか帽子と外套と靴をお取りください。

「よっぽどえらい人なんだ。奥に来ているのは。」と言って二人は帽子とコートと靴を脱ぎ、4つ目の扉の中に入りました。その扉の裏側にはこのように書かれています。

ネクタイピン、カフスボタン、メガネ、財布、その他金物類、ことに尖ったものは、みんなここに置いてください。

これを見た2人は「ははあ、何かの料理に電気を使うと見えるね。金気のものはあぶない。」と言って全て外して金庫に入れました。

また少し行くと今度は5つ目の扉があって、その前にガラスの壺が置いてあります。扉にはこう書いてありました。

壺のなかのクリームを顔や手足にすっかり塗ってください。

壺のなかは牛乳のクリームでした。「外が寒くて部屋の中が暖かいとひびが切れるから、その予防なんだ。どうも奥にはよほど偉い人が来ているらしい。案外ぼくらは、貴族と近づきになるかもしれないよ。」こう言って2人は、期待に胸を躍らせて顔や手足にクリームを塗りました。そして急いで5つ目の扉を開けると、その裏側にはこのように書いてあります。

クリームを良くなりましたか。耳にも良くなりましたか。

「僕は耳には塗らなかった。細かいところまでよく気が付くよ。」と2人が主人の心配りに感心していると、すぐその前に6つ目の戸がありました。

料理はもうすぐできます。15分とお待たせはいたしません。すぐ食べられます。早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振りかけてください。

二人は戸の前にある香水を、自分の頭へとふりかけました。ところがその香水はどうも酢のような臭いがしました。「下女(雑事などを任せるために雇った女中のこと)が風邪でも引いて間違えたんじゃないのか。」と言って、2人は6つ目の扉を開けて中に入りました。その扉の裏側には大きな字でこのように書いてあります。

いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください。
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3 7つ目の扉と恐ろしい西洋料理

 

「どうもおかしいぜ。」2人はようやく気づきました。「西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を来た人に食べさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやる家とこういうことなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」とガタガタ震えだしものも言えなくなりました。

一人の紳士が後ろの戸を押そうとしましたが、戸は一部も動きませんでした。奥の方には7つ目の扉があって、大きなかぎ穴が二つ付き、銀色のフォークとナイフの形が切り出してあって、こう書いてあります。

いや、わざわざご苦労です。大変結構に出来ました。さあさあおなかにお入りください。

かぎ穴からはキョロキョロ二つの青い目玉がこっちを覗いています。

2人はガタガタ震えて泣き出しました。すると戸の中から、コソコソこんなことが聞こえてきます。

「だめだよ。もう気がついたよ。」
「あたりまえさ。親分の書きようがまずいんだ。あそこへ、お気の毒でしたなんて、間抜けたことを書いたもんだ。」
「もしここへあいつらが入ってこなかったら、それは僕らの責任だぜ。」
「呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さん方、早くいらっしゃい。後はあなた方、と葉っぱをうまく取り合わせて、真っ白なお皿に乗せるだけです。早くいらっしゃい。」

2人はあんまり心を痛めたために、顔がまるでくしゃくしゃの紙くずのようになり、ブルブル震え声もなく泣きました。中ではふっふっと笑って叫んでいます。

そのとき後ろからいきなり「わん、わん、ぐゎあ」という声が聞こえ、あの白熊のような犬が2匹、扉を突き破って、部屋の中に飛び込んできました。鍵穴の目玉はたちまちなくなります。そして犬どもは7つ目の扉に飛び込んでいきました。

「にゃあお、くゎあ、ごろごろ。」という声と共にガサガサなりました。

室はけむりのように消え、二人は寒さに震えながら草の中に立っていました。上着や靴、財布やネクタイピンなどは、あちらこちらの枝にぶら下がっています。すると風が吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はカサカサ、木はごとんごとんと鳴りました
(※この描写は2回目です。山猫たちの魔法が解けて現実世界に戻ってきた、ということを表してるのかもしれません。)

犬が戻ってくると、後ろからは案内役の猟師が「旦那あ、旦那あ、」と草をかき分けて行ってきました。2人は「おおい、ここだぞ。」と叫んでやっと安心しました。

2人は猟師の持ってきた団子を食べ、途中で10円(現在のお金で2万5千円ほど)だけ山鳥を買って東京に帰りました。しかし一度紙くずのようになった二人の顔だけは、東京に帰ってもお湯に入っても、もう元のようには治りませんでした。

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感想と考察!

「注文の多い料理店」はいろんな意味で皮肉なタイトル

注文の多い料理店」は、東京から猟に来た二人の若い男が、山奥の「料理店」で山猫の罠にかかってあやうく料理されかかる、というお話。「注文の多い」というのは、食事に来たつもりのこちら側の注文ではなく、全てお店側の注文確かに「注文の多い」も「料理店」も正しく、タイトルに嘘はない
うまい皮肉を考えたものですね

ですが短編集としての「注文の多い料理店」は、うまいタイトルとは言えないようです。すでに上でも述べましたが、肝心な本の実販売においては、飲食店の商業テキストと間違えられたこともあり、さっぱり売れなかったようです。「注文の多い」どころか賢治が実費で買い戻すはめになってしまいましたさらに最初の短編集「注文の多い料理店」がコケたことで、その後に続くはずの12の短編集は全て頓挫。その結果膨大な量の賢治の文学作品が世に出ることなく埋もれ、生前彼が文学者として評価されることもほとんどありませんでした。「注文の多い作家」にはなれなかったようですね

結局彼の作品は、賢治の死後に友人が発見して世に出されるわけなのですが、もしも短編集のタイトルを「注文の多い料理店」以外の別のものに変え、プロモーション(販売戦略)をもう少し工夫していたらもっと売れていたでしょう。他の短編集も販売され、彼が生きてるうちに代表作が世間で評価され、歴史は少し違ったものになっていたのかもしれません。そう考えてみると「注文の多い料理店」は、別の意味で皮肉なタイトルに聞こえます。彼が生前評価されなかったのが残念ですね。

 

賢治の狙いとは?地方への思いやりと日本全体の一体感の醸成

宮沢賢治にはこの作品を出すにあたって、ある狙いがあったようで、当時の広告チラシではこの作品についてこのようにコメントしています。

糧の乏しい村の子供らが都会文明と放恣(ほうし・勝手で節度がないこと)な階級に対する止むにやまれない反感です。

つまり当時裕福で進んだ文化をもつ東京の人達が貧しい田舎を差別的に扱う傾向があって、それに対する反発を描きたかったのではないかと考えられます。

確かに二人の若者は、東京出身の裕福な西洋かぶれで都会の文明を象徴しており、娯楽の狩猟で山を荒らす行為は田舎への侮辱とも受け取れます。まして2人は連れている犬が死んでも金銭的損失だけを悔やみ、生き物への愛情など最初から持っていません。

その2人を、鉄砲をおいてクリームを塗ってください、などの明らかなおかしな注文に対し、中に高貴な人がいるに違いないと妄想させるなど滑稽に描いています。そして料理されているのが自分たちであると気づくと、恐怖のあまり顔を紙くずのようにして泣きじゃくり、金銭的価値でしか見ていなかった犬たちに助けられたうえに、紙くずのような顔は一生治らない。

田舎を差別的に扱った都会の象徴をコテンパンに描いています。寒く厳しい岩手で生まれ育った賢治の、豊かな都会の人たちに対する「地方の貧困と苦労を知れ!」という強力なメッセージを感じます。

都会の子供たちに自然への畏敬や田舎への思いやりを起こさせ、日本全体に一体感を醸成させるとてもいい童話だと思います

 

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7つの扉と賢治の狙い!

この童話を読んでもう一つ注目してみたいと思ったのが、料理店内の扉の数。原作では扉に番号は付けられていませんが、数えてみると全部で7つありました

実はイスラム教の聖典である「クルアーン(7世紀頃成立)」には「アッラーフこそは7つの天を創り、さらにまた同数の地を創り給うを方。15−43,44」という記載があり、イスラム教の天国と地獄はアッラーフが創ったものとされています。そしてその地獄は、7つの門を持つ階層構造になっていると考えられています

また、世界最古とも言われる古代シュメール神話に「イシュタルの冥界下り」というものがあります。これは美と豊饒の女神イシュタルが、冥界に行ったきり帰ってこない夫タンムーズを迎えに行くために、7つの門を通過して冥界の底に降りて行いくという物語。イシュタルは、この門を通過するたびに門番に服や装飾品を一つずつ剥ぎ取られていき、全裸になって冥界の奥にたどり着くのですが、そこで冥界の支配者である姉のエレシュキガルの命令によって幽閉されてしまいます。そして豊穣の女神が幽閉されたことにより、地上では作物が育たなくなってしまう、というお話です。

扉を通過するたびに泥やら鉄砲・帽子・上着・メガネ・財布などを取られていく「注文の多い料理店」に似ていません?

いずれにせよ七つの扉(門)と、その先に待ち受ける地獄(冥界)、という構図はどれも共通です。

賢治がどんなお話を発送源にこの「注文の多い料理店」を書いたかは分かりませんが、もしかすると貧しい村の子供達を見下す都会の裕福な西洋かぶれたちに、「地方をバカにすると地獄を見るぞ!」と訴えたかったのかもしれませんね。

 

僕はこの本をオススメしたい!

この「注文の多い料理店」は、子供たちに山や動物への畏敬や地方への共感を起こさせ、格差を乗り越えて日本人みんなが一体感を醸成できる素晴らしい文学だと思います

そこには宮沢賢治の想いが詰まっています。

教科書にも掲載され、日本を代表する童話として読まれ続けている理由が、よく分かる気がします。

僕自身も小さい頃お母さんに読んでもらって、思い上がった者達に牙を剥く山や動物に畏敬の念を感じたのを覚えています。

個人的にも好きな本です。

是非あなたのお子さんにも読んで聞かせてあげてください。

 

宮沢賢治の他の作品についても書いてみましたので、お時間があったら読んでみてください。
 
それとも他の本を読んでみる?

 

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