「帰れソレントへ」は1902年にデ・クルティス兄弟によって発表されたナポリ民謡。ソレントの海や風景の美しさを称えながら、自分を置いてソレントを去っていった恋人へ「置いて行かないで!帰ってくれ!」と懇願する情熱的でちょっと切ない失恋の歌です。
このナポリ語の「帰れソレントへ」の歌詞を翻訳して色々調べていたら、日本語歌詞のカバー曲が複数あることが分かりました。
そこで今回は自分の和訳とこれらの日本語版の歌詞を比較して、どれが一番原曲に忠実なのかを検証してみたいと思います。
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目次
1 芙龍(ふりゅう)明子訳詞「帰れソレントへ」!
※批評目的の引用です。
うるわしのソレント 海原はるかに夕もやたなびき 思い出誘うオレンジの香り ほのかにただよい森の緑にも 風はささやく今はただ一人 過ぎし日しのべば砕ける波音 寂しく響く帰れ君 故郷(ふるさと)の町このソレントへ 帰れようるわしのソレント 海原はるかに歌声流れて 夢路に誘う海の精(せい)シレーネ 妙なるその歌やさしくいざない 君を招くよ今日もただ一人 窓にたたずめば星かげ夜空に 寂しく光る帰れ君 故郷の町このソレントへ 帰れよ
2 徳永政太郎訳詞「帰れソレントへ」!
うるわしの海は うつつにも夢む君の声のごと わが胸をうつオレンジの園は ほのかにも香り…恋になげく子の 胸にぞしむよあわれ君は行き われはただひとりなつかしの地にぞ 君を待つのみ…オレンジの園は ほのかにも香り…恋になげく子の 胸にぞしむよあわれ君は行き われはただひとりなつかしの地にぞ 君を待つのみ…帰れよ われを忘るな帰れソレントへ 帰れよ
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3 野神彰作訳詞「帰れソレントへ」!
動画なし
海原はるけく 離れし春秋心に忘れぬ 恋しき山よ我が家の園には ほのかに今なおオレンジの花の はなやぎ匂えいつの日我また 帰りてあるべき入日の港に たたずむ時ぞ夢見るは 母の姿よ帰れソレントへ 今こそカモメは舞い飛ぶ 夕べの岬に思いをひそめて 過ごせし昔若葉の木陰に スバルは見えつつ哀しかりし日の 思い出遠しいつの日我また 帰りてあるべき入日の港に たたずむ時ぞ夢見るは 母の姿よ帰れソレントへ 今こそ
4 管理人ハク訳詞「帰れソレントへ」!
海を見て、なんて美しいのだろう 多くの感情が表れてくる
君の夢を覚まさせる 君が心に想う人のように
見て、この庭を 感じて、このオレンジの花を
そんな上質な香りが 心の中に染みわたる…
そして君は「私は行く、さようなら!」と言って 私の心から離れていってしまう…
この愛の地から… 帰らないつもりなのか?
でも私を置いて行かないで 私に苦しみを与えないで!
帰れ、ソレントへ 私を生きさせてくれ!
見て、ソレントの海を そこは奥深くに宝を秘めている
世界中を巡った人も ここのような場所を見たことがなかった
周りを見て セイレーン達が君を魅惑的に見つめている
そして彼女(セイレーン)たちは君にとても君をとても愛していて… 君にキスしたかったのだろう
そして君は「私は行く、さようなら!」と言って 私の心から離れていってしまう…
この愛の地から… 帰らないつもりなのか?
でも私を置いて行かないで 私に苦しみを与えないで!
帰れ、ソレントへ 私を生きさせてくれ!
※僕が作った日本語和訳です。これは歌うための訳ではなく原文の直訳に近いと思ってください。完全に字数オーバーです。
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5 原曲ナポリ語「帰れソレントへ」!
原曲作詞:ジャンバッティスタ・デ・クルティス
原曲作曲:エルネスト・デ・クルティス
Vide ‘o mare quant’è bello, spira tantu sentimento,Comme tu a chi tieni mente, Ca scetato ‘o fai sunnà.Guarda gua’ chistu ciardino; Siente, sie’ sti ciur’ arance:Nu prufumo accussi fino Dinto ‘o core se ne va…E tu dice: “I’ parto, addio!” T’alluntane da stu core…Da sta terra del l’ammore… Tieni ‘o core ‘e nun turnà?Ma nun me lassà, Nun darme stu turmiento!Torna a Surriento, Famme campà!Vid’o mare de Surriento, che tesoro tene nfunno:chi ha girato tutto ‘o munno nun l’ha visto comme’a ccà.Vide attuorno sti Sirene, ca te guardano ‘ncantate,e te vonno tantu bene… Te vulessero vasà.E tu dice: “I’ parto, addio!” T’alluntane da stu coreDa sta terra de l’ammore Tiene ‘o core ‘e nun turnà?Ma nun me lassà, Nun darme stu turmiento!Torna a Surriento, Famme campà!
個人的な感想!
調べてみたところ訳者の確認できた日本語歌詞が3つありました。まずは原文の重要なポイントを確認してみますね。
まず①イタリア「ソレント」の風景や海の美しさを称えて、自分を置いてソレントを去った愛しい人に「ソレントへ帰ってくれ」と訴えるところがこの歌詞のメインストーリーです。
それからソレントの風景や特徴を表す②オレンジの花(の香り)や③セイレーンも重要なキーワードだと思います。
セイレーンというのはギリシャ神話に登場する上半身が女性で下半身が鳥の姿をした妖精で、その魅力的な歌声に惑わされた船乗りはセイレーンの島に上陸して死んだとされていますが、神話によるとナポリ湾の隣に浮かぶイスキア島やカプリ島あたりがこのセイレーン達の島だったようです。つまりソレントの「ご当地妖精」ということになるみたいですね。
3つのうち特に原曲に近いと感じたのが芙龍明子さんの和訳。自分を置いてソレントを去った描写がちょっと足りない気がしますが、①②③の要素を盛り込んだ上で文字数を整えたうまい和訳だと感じました。
次に原曲に近いと感じたのが徳永政太郎さんの和訳。美空ひばりさんが歌われたのは歌詞の全てではなかったのかもしれませんが、セイレーンが入っていないです。ですが芙龍明子さんの訳にはない自分を置いて行った描写が入っていますね。
最後の野神彰作さんの和訳は肝心な帰って欲しい相手が愛しい人ではなく母に入れ替わってしまっています。またセイレーンが入っていおらずカモメやスバルなど原曲にないワードを加えてしまっているため、原曲の世界観が中途半端に変わってしまっていると感じます。
必ずしも「原曲に近い=いい和訳」ではないと思いますが、変更した趣旨がよくわからないのでちょっともったいない気がしました。
実はこの曲、あのエルヴィス・プレスリーも自身の歌に採用しています。それが1961年にリリースした「サレンダー」。ただこの曲はメロディは確かに「帰れソレントへ」なのですが、中身は完全に別の歌です。内容は「愛し合うカップルの熱い一夜」であって、「ソレント」などという地名は一切登場しない徹頭徹尾愛し合うハッピーエンドの歌です。
ただ完全に世界観が変わってしまっているのですが、趣旨が明確であるため分かりやすく、完全に別の歌として親しむことができます。色気漂うプレスリーとよく合うなかなかいい歌でしたよ。
ちなみに原曲「帰れソレントへ」は1902年にイタリア首相がソレントを訪問する際に、その首相接待のためにソレント市長の指示で作られた「町起こしソング」だったと言われています。ただこれをこの時にゼロから作ったわけではなく、デ・クルティス兄弟がすでに作ってあった失恋の歌を急遽改作して仕上げたみたいなのです。その結果自分を置いて去った恋人に対して「帰ってくれ!」と懇願する一方で、半分ソレントを宣伝するようなやや趣旨の不明確な歌になっていると感じます。
「プレスリー」の「サレンダー」はむしろ原曲よりも趣旨が明確な分かりやすい歌に感じました。
また有名な「オーソレミオ」にも「我が太陽」という日本語のカバー曲があるのですが、調べてみるとこの歌は「太陽」というキーワードだけを残してほぼ別の歌詞になっていましたね。
カバー曲って原曲に忠実なものから完全にかけ離れたものまで様々なのですね。いずれにせよもし覚えるのであれば原曲にチャレンジしてみることをおすすめします。できれば単語の意味も一つ一つ確認しながら。その方が世界観がダイレクトで伝わりますから。
この「帰れソレントへ」も誰でも歌えるようにしてみましたので、よかったら挑戦してみてください。
それからこの曲について色々調べていたら YouTubeで「空耳版帰れソレントへ」を発見しました。歌詞を吟味してみるとこれがなかなか面白いのですよ😁。是非見ておいてほしいです。
それではお元気で。
ハク
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