「マクベス」は、ウィリアム・シェイクスピアによって1606年頃に書かれた戯曲。マクベス将軍が主君を暗殺して王位につくが、やがて錯乱して暴政を敷き、王子たちの復讐に倒れる物語で、11世紀のスコットランドを舞台にしたお話になります。
この「マクベス」について、詳しいあらすじ・内容・解説・登場人物・感想を書いてみました。ただちょっと張り切りすぎて21000字にまで膨れ上がってしまいました。少し分量がありますが、最後まで読んで頂けたら嬉しいです。
まずは簡単な内容と解説!
(※ここではマクベス成立の過程を解説します。お急ぎの方はあらすじまで飛ばしてもらって構いません。)
ウィリアム・シェイクスピア(1564−1616年)は、イングランドを代表する詩人で劇作家。ダンテやゲーテと共に、「世界三大詩人」の一人にも数えられる世界的な文豪です。数多くの傑作を世に残したことで有名ですが、彼の作品には、軍事、法律、宮廷、音楽など多くの専門知識が使われているいる他、海外の言語や文学にも精通しているため、複数の人間がシェイクスピアというペンネームを共有したのではないか、といった別人説も囁かれる謎の多い人物でもあります。
「ハムレット」「リア王」「オセロー」「マクベス」の「四大悲劇」が特に有名ですが、基本的に彼の作品は、ゼロから物語を創作しているわけではありません。すでに存在していたエピソードや種本があり、これを翻案(海外の文学作品の筋や内容を借りて、人名や地名などを変えて改作すること。)やリメイクをすることによって新たな文学を創作する手法を主に取っています。
この「マクベス」にも元となる資料が存在し、それがラファエル・ホリンシェッドの「イングランド・スコットランド・アイルランドの年代史」(以下「年代史」1587年成立)。これは主にこの3カ国の歴史を包括的に記した歴史書とされているのですが、「シェイクスピアのマクベス」はこの「年代史」に記載されたスコットランドの実在の王マクベス(在位1040ー1057年)の話を元に描かれています。
(※シェイクスピアは「マクベス」以外にも「リア王」などいくつかの作品をこの「年代史」を元に書き上げていることが分かっています。)
要するに11世紀のスコットランドを舞台にした実話に基づくお話ということになるのですが、シェイクスピアはこの「年代史」の記述を大きく変更した上でこの「マクベス」の戯曲を書き上げています。
調べてみると、そこにはある目的があったようなのです……。面白かったのでこの「年代史」と「シェイクスピアのマクベス」の主な違いをご紹介しますね。
二つ目が、マクベスの人間性と王位の正当性。「シェイクスピアのマクベス」によると優柔不断で愚かな王位の簒奪者として描かれていますが、「年代史」によると武勇の誉れが高く決して暴君とは描かれていません。確かに前王であり親戚であったダンカン一世を殺して王位に付き、後にマルコム三世に復讐されることは事実ですが、マクベスにも王位を主張できる正当な理由があったうえに、下克上は当時のスコットランドにおいては珍しいことではなかったようです。そもそも祖父マルコム二世が、孫のダンカンに王位を継がせるためにライバルとなる親族を何名か殺していたのですが、王位継承権を有する男子がまだおり、その母とマクベスが再婚していたためマクベスも王位を主張できる立場にあったそうです。しかもこのマルコム二世はマクベスの母方の叔父にあたる人物で、むしろダンカンの方が王位の簒奪者にあたる人物だったようです。
三つ目が、バンクォーの扱い。「年代史」によるとバンクォーも王位簒奪の野心を持っており、マクベスの陰謀の相談にも乗ることになっていたようですが、「シェイクスピアのマクベス」によるとバンクォーの野心は曖昧になり、むしろ彼のダンカンへの忠節や正義感を強調しています。
なぜシェイクスピアがこのような変更を行ったのか……気になりました?
……実はこういった事情があったようです。
1603年、エリザベス一世(1533ー1603年)が亡くなります。その後イングランド王の位についたのがジェームズ一世(1566ー1625年)なのですが、実は彼は元々スコットランド王のジェームズ六世であり、エリザベス女王の死後イングランド王も兼ねるという形を取りました。そして以後スチュアート・イングランド王家として続いていきます。
このスコットランド王家の歴史を遡ってみると、この物語に登場するバンクォー(11世紀の実在の武将)の子フリーアンスの子孫がやがてスコットランド王となるため、ジェームズ一世はバンクォーの子孫ということになります。実際本編中にも「バンクォーの子孫が王となる」という魔女の予言があり、その予言通りバンクォーの子孫が王となってジェームズ一世までつながる、ということになっています。
そして1606年の宮中で行われた観劇の際に上演されたのが、この「マクベス」だったようです。だとすれば、新イングランド王・ジェームズ一世のご先祖にあたるバンクォーを悪く描けるわけがないですよね。そしてバンクォーと彼が忠節を尽くしたダンカンが正しく、逆にそのダンカンとバンクォーを殺したマクベスさんには王位簒奪者として徹底的に悪者になっていただく、という筋書きが都合が良いことになります。
そのような事情があったわけですから、この「シェイクスピアのマクベス」の劇をご覧になった新イングランド王・ジェームズ一世は、さぞかしご満悦だったことでしょうね。
なにしろ他の国からやってきた直後に、あなたのご先祖こそが正しく、あなたの王位承継は予言(神)の言葉である、と言っているに等しいわけですから。
なるほど、そういうことでしたか、シェイクスピアさん!「マクベス」ってそういうお話だったのですね!
っというかあなたそういう人だったのですか……?全力で権力者に阿るタイプの……。
やっぱり成功したければ、強い者に味方してもらうことが大事!ということなのですね。シェイクスピアのフットワークの良さと巧みな処世術を垣間見た気がします。
実はこの「マクベス」には、もう一つ他のシェイクスピア作品とは異なる特徴があります。
それが話が短いこと。
「ハムレット」「リア王」「オセロー」といった他の「四大悲劇」と比較しても2/3ほどのボリュームしかありません。ですがこれも宮中観劇用に作られたことに起因するようです。実は当時、宮中では一般興行よりも時間が短く限定されており、長時間だらだらと劇をするわけにはいかなかったようです。その限られた時間内で行われる宮中観劇用として作られた戯曲だから、他の作品よりも明らかに短くなった、ということになるようです。
短くなったことで、読者や見物をより高い密度で劇中の変化に引きずり込むようになったとも言われていますが、本来長い劇を強引に割愛したところがあるため、心理や性格の描写がやや不明瞭との声もあるそうです。
なお戯曲(ぎきょく)というのは劇の台本のことです。そのため小説などと異なり、中身はほぼ登場人物の会話のみとなります。
登場人物!
スコットランドの王で穏和で徳のある人物。次期王に息子のマルコムを指名したため、予言通り王位に就こうとするマクベスに暗殺される。
ダンカンの息子。ダンカン王殺害により身の危険を感じ、マルコムはイングランドへ、ドヌルベインはアイルランドへ一旦逃亡する。その後イングランドの猛将シュアードに一万の援軍を出してもらい、スコットランドの貴族たちをまとめあげる。最後はマクベスを討ち果たし、スコットランドの王に即位する。
ダンカンの部下でグラミスの領主だったが、ノルウェー王との戦で大活躍してコーダ領主に任命される。魔女の予言「いずれ王となるお方」を信じ、自らダンカン王を暗殺してスコットランド王となるが、やがて錯乱して暴政を行い、離反した貴族達に反旗を翻され、最後は「女が産み落とした者ではない」マクダフにダイシネインで討ち取られる。勇猛で野心はあるが、優柔不断で決断力に欠ける人物。
夫マクベスと共謀してダンカン王殺害を積極的に主導する。暗殺に成功して妃となるが、次第に追い詰められて夢遊病になり、最後は貴族たちが次々と離反していく中自ら命を断つ。
マクベスの鎧持ち。
ダンカンの部下で、武勇だけでなく忠節も兼ね備えた武将。魔女から「バンクォーの子孫が王になる」という予言を受けるが、やがて王位を奪われること恐れたマクベスに暗殺される。
バンクォーの息子。マクベスに父バンクォーと共に暗殺されそうになるが、間一髪切り抜け逃亡する。本編ではこの後登場しなくなるが、史実ではこのフリーアンスの子孫がやがてスコットランド王(1371〜1714年)となり、さらに1606年頃にこの「シェイクスピアのマクベスの観劇」を宮廷で見ることになるイングランド王・ジェームズ一世へと系譜は繋がる。
ダンカン王に仕えるスコットランドの貴族。マクベスは「女の生み落としたものでは、マクベスを倒せない。」と予言されるが、マクダフは帝王切開で生まれており、予言の「女が産み落としたもの」には該当しない。マクベスに家族を皆殺しにされ、ダンシネイン城でマクベスを討ち取り復讐を果たす。
ダンカン王に仕えるスコットランドの貴族たち。マクベスが王位について以降、一旦はマクベスに従うが、彼の暴虐にやがて離反し、最後はマルコムを担いでマクベスに決戦を挑む。
ノーサンバランドの領主で勇猛果敢なイングランド軍の武将。一万の兵を率いてマルコムやスコットランドの貴族達に加勢し、マクベスを討ち果たす。
シュアードの息子。父と共にマクベス討伐に参加するが、ダンシネイン城門の前でマクベスに討ち取られる。
怪しげな術を操る老婆たちで、予言の力がある。マクベスには「グラミスの領主様!コーダの領主様!いずれは王となられるお方!」、バンクォーには「子孫が王になる。」という重要な予言を与えるが、彼女たちの予言は結果的にすべて実現する。
浄めと贖罪と魔術を司るギリシャ神話の女神。本作品では魔女たちの元締め的存在で、この世に起こる禍事を一手に操る存在。魔女たちがマクベスを相手に勝手な取り引きを行ったことに怒っている。
詳しいあらすじ!
あらすじに入る前に、少し時系列のお話をしておきます。物語中に年代を特定できる記述はありませんが、ホリンシェッドの「年代史」によると、マクベスの在位期間は1040ー1057年ということになっているため、おそらく西暦1040年頃のスコットランドを舞台にしたお話、ということになると思われます。物語を読み進めていくと大きく時間が進む場所が1箇所だけあり、それが第二幕第4場の直後で「数週間経過」と記載されています(これ以外は時間の経過を表す記述は基本的にありません)。それから第四幕から第五幕にかけて貴族がスコットランドとイングランドの間を行き来することになりますが、この時に何日か経過することになると思われます。この他では場の切れ目であっても、時間的には連続していたり、経過したとしても1日か数日と思われます。正確にどれだけの時間が経過したのかはわかりませんが、新潮文庫版の解説によると「シェイクスピアのマクベス」の在位期間は10週間ほどと記載されています(史実によると在位期間は17年間)。
第一幕
第一幕 第1場 魔女たちの密談
西暦1040年頃。
場所は不明。
雷、稲妻が鳴り響く中、3人の魔女が会話している。3人は次にいつ会うか話しているが、「戦いが終わったら荒地でマクベスに会おう」と言っている。「綺麗は汚い、汚いは綺麗。」という不思議な言葉を囁きながら、3人は霧の中に消えていく。
第一幕 第2場 マクベスの活躍で戦争に勝つ
第1場のすぐ後と思われる。
場所は戦争の真っ只中のスコットランド王軍の陣営。
ダンカン王の前に、息子(王子)のマルコムとドヌルベイン、貴族のレノクスたちが立ち並ぶ中、傷を負った隊長がやってきて戦況の報告する。
報告によると、現在の戦況はいずれとも言えない情勢。敵の残忍な謀反人マクドンウォルドが大軍を繰り出すも、勇猛果敢なマクベスが敵陣深く切り込みこれを討ち取り、敵兵は浮き足立った。
この報告に王ダンカンは「身内ながら勇ましい!見上げた男だ!」と喜ぶ。(※ダンカンとマクベスは親族にあたります。)
ところがそこへ突然ノルウェー王が新手の兵を率いて不意打ちを仕掛け、なだれこんできた。それに対し現在、マクベス、バンクォーの両将が凄まじい勢いで立ち向かっているところ。
隊長が治療のために去ると、今度は貴族のロスがやってきて戦況を報告する。
報告によると、ノルウェー王は自ら大軍の先頭に立ち、裏切り者コーダ領主の助けを頼みに激烈な攻撃を開始したが、これをマクベスが軍神マルスさながらの働きにより、見事敵の大群を食い止め、味方の大勝利。その結果ノルウェー王は、ついに和睦を求めてきたが、当方はたやすく応じるきとなく、1万ドルの献納を命じている。
この報告に王ダンカンは大喜びし、直ちにコーダ領主の処刑を命じると共に、新たなコーダ領主に大活躍のマクベスを任ずるよう命じた。
第一幕 第3場 魔女の予言とマクベスの野心
第2場のすぐ後と思われる。
場所は荒地。
雷鳴とどろく中、3人の魔女がマクベスが来るのを待っている。魔女たちが踊ってまじないをかけると霧が3人を覆う。
そこに戦を終えてフォレス城へ向かっているマクベスとバンクォーがやってくると、霧が薄れ3人の魔女が現れる。マクベスが「一体何者だ、貴様たちは?」と問うと、魔女たちはマクベスに対し、「グラミスの領主様!コーダの領主様!いずれは王となられるお方!」と予言を告げる。
マクベスに対する思いがけない予言を聞いたバンクォーが、自分の予言も言ってみろと言うと、魔女たちは「子孫が王になる。」と予言する。
(※この「マクベス」は、新イングランド王・ジェームズ一世に見せるための観劇です。そしてジェームズ一世はバンクォーをの子孫です。この「バンクォーの子孫が王になる」という予言を聞いたジェームズ一世は、さぞかしご機嫌だったことでしょうね。)
マクベスは、確かに父の死後に後を継いで既にグラミスの領主にはなっているが、コーダの領主はまだ元気である。まして王になるなどとても信じられなかったマクベスは、「もっとはっきり言え。」と確認しようとするが、急に霧が濃くなり魔女たちは消え失せた。
そこにスコットランドの貴族ロスとアンガスがやってくる。二人はマクベスの戦での活躍ぶりを讃え、ダンカン王の労いの言葉とマクベスを新たなコーダ領主に任命する旨を伝える。なんでもコーダ領主はまだ存命ではあるが、ノルウェー王と通じて謀反を企てた罪により、処刑は免れないとのこと。
予言のうち、「グラミスの領主」と「コーダの領主」の2つが現実となったマクベスは、3つ目の「王になる」予言に対しても野心が芽生える。
マクベスはバンクォーに「子孫が王になる、それもまんざら嘘とは言えまい?」と語りかけるが、バンクォーは「そんなことを本気にすると、王冠にまで手を出したくなるぞ。」とマクベスを注意する。マクベスは「いずれ落ち着いたら、今日のことは十分吟味した上でお互い語り合おう。」と言って出発する。
第一幕 第4場 次王マルコムの指名とマクベスの野心
第3場のすぐ後と思われる。
場所はフォレス城の宮中の一室。
ダンカン王、息子のマルコムとドヌルベイン、貴族のレノクスたちが話をしている。マルコムの話によると、コーダ領主は自分の罪を素直に認めて深く悔いており、処刑は立派な死に様だったとのこと。
そこにマクベスとバンクォー、貴族のロス、アンガスが到着する。
ダンカン王は、早速マクベスとバンクォーの戦での働きに対し感謝と賛辞の言葉を贈るが、同時にその場で長男マルコムを世継ぎと定め、今後カンバランド公と呼ぶことに決める。
マクベスは「この喜びを、妻に伝えて喜ばせましょう。」と言って去っていくが、明らかに王位への野望を持っており、マルコム王子を邪魔者と感じている。
第一幕 第5場 王の訪問と殺害計画
前場から何日か経過した模様。
場所はインヴァネス、マクベスの居城前。
マクベス夫人が、夫マクベスからの手紙を読んでいる。
手紙の内容は概ね次のようなこと。凱旋当日、怪しげな女たちに「コーダの領主様!」と呼びかけられると、王の使者から「コーダの領主」と祝いの言葉をかけられた。さらに奴らはマクベスを「いずれは王となられるお方!」とほのめかした。ともに栄光を分かつべきかけがえのないお前に、ぜひとも知らせておきたい。ただ心配なのは、自分は、野心はあるが人情というものがあり、これを操る邪な心にかけている。手を下すのは恐ろしいが、このまま引き下がることもできない。
(※つまり王になるチャンスが到来しているが決心がつかない、という心の迷いを妻に告白する内容です。)
そこに従者が現れ、マクベス夫人に、王様が今夜こちらを訪問する予定である旨を伝える。これを聞いた夫人は、「悪霊たちよ、私を女でなくしておくれ、恐ろしい残忍な心でいっぱいにしておくれ!」と予言の実現のため、王殺害の覚悟を固める。
そこにマクベスが帰ってくると、二人は今夜王がここに来ることを確かめ合い、夫人は「私たちに権力が訪れるかどうかは、全て今夜の仕事しだい。後のことはみんな私に任せて。」と王殺害を積極的に主導する。
第一幕 第6場 ダンカン、マクベスの居城を訪れる
第5場の夜。
場所はマクベスの居城前。
ダンカン王、息子のマルコムとドヌルベイン、バンクォー、それから貴族たちが到着すると、城の前にマクベス夫人が現れ、一行を城内へと案内する。夫人はダンカンに今回の栄誉を感謝している。
第一幕 第7場 マクベス、王殺害を決意する
第6場のすぐ後。
場所はマクベスの居城の中庭。
マクベスは、穏和で徳があり、なおかつ自分を信頼してくれているダンカン王を暗殺することに対し、「こういうことは、必ず現世で裁きが来る。」と迷い葛藤している。
そして「王は栄進を計ってくれたのだ、もうやめにしよう。」と婦人に暗殺中止を申し出る。それに対しマクベス夫人は「やってのけるぞの口の下からやっぱり駄目だ、は腰砕けの臆病者です。この企みを打ち明けになった時こそ真の男。勇気を絞り出すのです、やり損なうものですか。」とマクベスをけしかける。
二人の計画は次の通り。王は旅の疲れで今夜はぐっすり寝込んでしまうだろう。二人のお付きは葡萄酒をどんどん勧めて酔い潰しておく。酔いつぶれたら二人の短剣を使い王を殺害。そして酔いつぶれた二人に血を塗り付けておく。そうすれば、人の目にもそいつらの仕業と見えるだろう。
そして婦人に散々唆されたマクベスは、ついに暗殺の腹を決める。
第ニ幕
第ニ幕 第1場 ダンカン王の暗殺
前場の1,2時間後、深夜0時過ぎ。
場所はマクベスの居城の中庭。
バンクォーと息子のフリーアンスが二人で会話していると、そこへマクベスが現れる。バンクォーは、王が大変ご満悦の様子で既にお休みになった旨を伝えると、昨夜3人の怪しげな魔女たちの夢を見たと語る。
それに対しマクベスが「そのことについてちょっと相談したい。都合をつけてくれないか。」と頼むと、バンクォーは「臣下の道に外れぬことならば、いつでも相談に乗ろう。」と答える。これを聞いてバンクォーには頼めないと感じたマクベスは、バンクォーとフリーアンスを自分の部屋に帰す。
(※ジェームズ一世のご先祖であるバンクォーは、あくまで忠義の武将として描かれています。)
一人になったマクベスは、テーブルの上の短剣を見つけて手に取ろうとするが掴めない。よく見ると刃や柄に生き血がこびりついている。どうやら血生臭い企み事が自分の目に幻を見せているようだ、とマクベスは考える。
寝酒の用意ができたことを表す合図の鐘の音が聞こえてくると、マクベスは階段を上りダンカンの元へ向かう。
(※具体的な王殺害の描写はありませんが、ここでマクベスは王ダンカンを殺害します。)
第ニ幕 第2場 マクベスの動揺と後始末
前場の少し後でまだ深夜、ダンカン殺害直後。
場所はマクベスの居城の中庭。
マクベス夫人が手にコップを持って中庭に登場する。計画通り二人の護衛に眠り薬を入れた寝酒を飲ませてきたらしい。
突然奥から「誰だそこにいるのは?やい、動くな!」というマクベスの声が聞こえ、夫人は(目を覚まして、やりそこなったのかもしれない。)と身の破滅を予感する。すると両手に血がついたマクベスが、二本の短剣を手に、よろめくようにして戸口から出てくる。夫人が聞くと、マクベスは声を出したことを覚えていない。
そしてマクベスは何が起こったのかを夫人に語り出すが、その内容がどうも判然としない。「(ダンカン王殺害の後)二人の王子(マルコムとドヌルベイン)のうち一人が眠りながら笑いだし、もう一人が「人殺し!」と叫んだ。それで両方とも目を覚まし、じっと立って様子を伺っているといきなり祈祷を始め、互いになにか言い合い、すぐまた横になって眠ってしまった。一人が「神のお慈悲を!」と言うと、もう一人が「アーメン」と言った。神の慈悲を必要としているのはこの俺であるはずなのに、俺はどうしても「アーメン」と言えなかった。そしてどこからか「もう眠りはないぞ!マクベスが眠りを殺してしまった。」という声が聞こえ、その声が城中にこだましていた。」
(※マクベスの話には幻覚や幻聴が含まれていると思われます。通常の精神状態ではないようです。)
婦人がマクベスが持っている短剣に気づき「どうしてその短剣を持っていらしたのです?あの部屋に置いておかなければなりません。あの二人の護衛に血を塗り付けてくるのです。」と指示すると、マクベスは「もう行くのは嫌だ。もう一度見るなどと、とてもできない。」と拒否。これを聞いた夫人は「不甲斐ない。短剣をよこしなさい。」と言って短剣を取って上の部屋に上がっていく。
戻ってきたマクベス夫人の手は血に染まっていた。夫人はマクベスに「そんな、何かに心を奪われている様子は禁物。元気をお出しになって。」と注意するが、「自分のやったことを思い出すくらいなら、何も知らずに心を奪われていたほうがましだ。」と明らかに動揺している。
第ニ幕 第3場 暗殺の発覚と王子たちの逃亡
前場のすぐ後。暗殺の翌明け方。
場所は同じマクベスの居城の中庭。
誰かが城の門を叩き続けている。酔っ払った門番が戸を開けると、貴族のマクダスとレノクスが入ってくる。するとマクベスが何事もなかったかのように夜着を羽織って出てくる。
マクダスが「王はお目覚めですかな。早く起こしてくれと言いつけられている。」と申し出ると、マクベスはダンガン王が寝ているはずの部屋に案内する。王は今日ここを発つ予定。レノクスは「昨夜は一晩中、不気味なことばかりが続いた」と言っている。
マクベスがそれに頷いていると、王の部屋に入ったマクダフが慌てて戻ってきて「恐ろしいことが起こった!俺の口からは言えない!部屋に入ってみろ。その目で見てみろ。」と告げる。マクベスとレノクスが急いで王の部屋に入ると、マクダフは「みんな起きろ!警鐘を鳴らせ!謀反だ!」と叫び、王子のドヌルベインとマルコム、そしてバンクォーを呼ぶ。
そこにマクベス夫人が「あの忌まわしい警鐘は何事です?その理由をおっしゃって!」と何事もなかったかのように現れる。
そして武将バンクォー、王子のマルコムとドヌルベインも現れ、マルコムが王が暗殺された旨を伝える。マルコムが「下手人は誰だ?」と問うと、レノクスは「お付きの者としか思われません。二人とも血糊が顔や手にべっとり付いており、用いた短剣も枕の上に転がっておりました。さらに両人とも乱心のていでオロオロするばかり。」と犯人をほぼ特定する。
マクベス夫人が気を失いそうになり、マクベスがそれを支える。
(※犯人はマクベスでこれは演技です。)
マルコムとドヌルベインが小声で何やら話し合っていると、バンクォーが「いずれ着替えた上でゆっくり話し合おう。どこまでも取り調べる必要がある。自分はこの反逆の裏に隠れた魔手と一戦交えるつもりだ。」とみんなに語る(※バンクォーはマクベスの「いずれ王になる」予言を知っているため、既に気づいている可能性があります。)。マクベスも同意して一旦着替えて再び広場に集まることになったが、マルコムとドヌルベインだけはその場に残り、相談を続ける。
マルコム「心にもない悲しみを見せるあの連中に付き合うわけにはいかない。自分はイングランドに逃げようと思っている。」
ドヌルベイン「それならば、こちらはアイルランドだ。分けておいた方が、お互い安全というもの。血の近いものほど血生臭いことをやりかねない。」
と言って二人はその場から去っていった。
(※要するに身の危険を感じたから逃げたということになります。なお、マクベスはダンカン王の親族にあたります。この二人もマクベスが怪しいことに気付いたのかもしれません。)
第二幕 第4場 マクベス、護衛を処刑し王即位へ
その日(王殺害の翌日)の昼。ひどく陰気な日。
場所はマクベスの城の前。
スコットランドの貴族ロスと老人が、昨夜の事件について話している。老人はこの70年間、昨夜ほど恐ろしく気味の悪いことはなかったと言っている。
そこに同じく貴族のマクダフが城から出てきて、ロスに暗殺事件のその後の顛末を伝える。マクダフの話によると、護衛の二人はマクベスに殺された。ただしこれはただの実行役であろう。そして王子のマルコムとドヌルベインが密かに姿をくらましており、王殺害の嫌疑はこの二人に掛けられている。
それを聞いたロスは「そんなことをすれば、王子は自分で自分の命を断ち切ることになる。王位はマクベスのものとなりましょう。」と不信感を抱く。
マクダフは答える。「もうマクベスの王指名も済み、戴冠式のためスコーンへ出発された。」
マクダフはファイフへと旅立ち、ロスはスコーンへと向かった。
第三幕
第三幕 第1場 バンクォー親子暗殺計画
「数週間経過」と書かれている。
場所はフォレス城(元ダンカンの城で現在はマクベスの城)、宮中謁見の間。
バンクォーは、マクベスが、グラミス、コーダ、そして王、と魔女の予言通り手に入れてきたことを知っていおり、そのために随分手を汚したと思っている(※つまりダンカン王を殺害したのはマクベスだと思っている。)。だが魔女たちの予言が本当ならば、その王位はマクベスの子孫には伝わらず、この俺の子孫のものとなる。俺の御神託も望みがあるかもしれない。バンクォーが謁見の間で一人こんなことを考えていると、そこへトランペットの音楽とともに、マクベス王、妃のマクベス夫人、貴族のレノクス、ロス達が入ってくる。
マクベスがバンクォーに「今夜の酒盛りに是非出席してもらいたい」と誘うと、バンクォーは「これからすぐ馬で出かけ、息子のフリーアンスを連れ、晩餐までには戻ってきます。」と答え出発する。
マクベスは、生まれながらの貴品、不屈の魂、それから勇気の分別を兼ね備えているバンクォーを恐れている。しかも魔女たちの予言によると、バンクォーの子孫が王になることになっている。奴の子孫を王にするために俺はダンカンを殺したのか!運命よ、そうはさせない。俺と勝負しろ、最後の決着をつけてやる!マクベスはこのように考えバンクォー暗殺を企む。そして二人の刺客を呼んだ。
マクベスは、バンクォーにひどい目に合わされたとされる二人の男を籠絡(ろうらく・
言いくるめること)し、バンクォーと息子のフリーアンスの暗殺を命ずる。「1時間以内に正確な待ち伏せ場所と時刻を知らせるが、場所はこの宮殿の門からそれほど遠くないところで、決行は今夜だ。それからこの私は、感知していないことを忘れてはならぬぞ(※失敗しても俺の名前は出すな、ということ)。」と伝えると、刺客たちに奥で控えさせる。
第三幕 第2場 マクベス夫妻の不安と悪事の重ね
前場の少し後。
場所はフォレス城、宮中謁見の間。
マクベス婦人が一人で、「望みを遂げても、満ち足りた安らぎが得られなければ、何もならない。全て無駄なこと。」と呟いていると、マクベスが物思いに沈みながら入ってくる。
マクベスは「3度の食事も安心して取れず、夜毎の眠りも悪夢に苛まれるくらいなら、いっそ秩序も壊れ、天地も滅んでしまうがいい。」と呟いており、夫婦共に反逆と生きる不安に苦しんでいる様子。
そんなマクベスに対し夫人は「客の前ではそんな険しい顔しないで、明るく楽しそうにしてください。」と注意し、マクベスも「お互いそうしよう。特にバンクォーの前では気をつけよう。」と警戒している。
マクベスは婦人に、「ひとたび悪事に手をつけたら、最後の仕上げも悪の手にゆだねるのだ。」と語り、バンクォーとフリーアンスについて、今夜恐ろしいことが起こることをほのめかすが、具体的な殺害計画については告げなかった。
第三幕 第3場 バンクォー暗殺
同日の夕暮れ。
宮殿から約1マイル離れた森の中の坂道。
すでに暗殺を指示してあった二人の刺客に、3人目の刺客が合流し、目的を確認しあう。
そこへバンクォーと松明を持った息子のフリーアンスが坂道を上ってくる。一人の刺客がその松明を叩き落とすと同時に、他の二人の刺客がバンクォーを襲って殺すが、フリーアンスには逃げられる。
三人は「肝心なやつを逃してしまった。」と悔やみながらも、マクベスの元に結果を報告に行く。
第三幕 第4場 マクベス、宴会で亡霊を見て錯乱する
前場の後。その日の夜。
場所は宴会の用意をしてある宮中大広間。
マクベス夫妻、ロスやレノクス、その他の貴族たちが宴会にやって来て着席する。
マクベスが酒宴の挨拶をすると刺客が姿を現し、小声で暗殺を報告する。マクベスはバンクォー殺害の知らせに喜ぶが、フリーアンスを逃した知らせに不安の発作に襲われる。
刺客が去り、みんなをもてなしたマクベスが、貴族たちに勧められて自分の席に座ろうとすると、そこには血みどろの髪の毛をふりたてたバンクォーをの亡霊が座っている。
マクベス「誰の仕業だこれは?違う俺がやったのではない。」と取り乱すと、夫人は「いいえ、時々こんな発作が起こります。王のことは気になさないで。」とみんなに取り繕う。
小声でマクベスが「怪物が見つめている。」と言うのに対し、夫人は「それはご自分の恐怖心が生んだ絵姿。何もありはしません。ただの椅子です。」と小声で言い争う。どうやらこのバンクォーの亡霊はマクベス以外には見えないらしい。
一旦亡霊は消える。取り繕ったマクベスが改めて「一同の忠節を、謹んで乾杯。」と乾杯の音頭を取ると、再び亡霊が現れてマクベスの席に座る。
(※みんなには見えません。)
完全に取り乱したマクベスは「ええい、どけ!地下に消え失せろ!行ってしまえ、人を脅かす影法師!」とみんなの前で叫ぶ。亡霊はすぐに消えるが、これを見た夫人は「大丈夫です。皆さん、よくあることです。今夜はこのままお引き取り下さいませ。」と宴会を終わらせ、一同は退出する。
(※特に記述はありませんが、これを境にスコットランド貴族たちのマクベスに対する不信感はさらに高まったと思われます。)
もう朝になろうとしていた。マクダフは結局宴会には参加しなかった(※マクダフは王殺害の第一発見者です。彼も早い段階からマクベスが怪しいことに感づいていたと思われます。)。
マクベスは「どんな忌まわしい未来であろうとも、どうしても知りたい。我が身のためなら大義名分も知ったことではない。」と言い、夜が開けたら魔女たちの所に行って、いろいろ聞き出してくることを決意する。
第三幕 第5場 ヘカテーと魔女たちの取り引き
前場の後。宴会の翌明け方と思われる。
場所は雷鳴轟く荒地。
ヘカテー(※浄めと贖罪、魔術を司るギリシャ神話の女神。本作品では魔女たちの元締め的存在で、この世に起こる禍事を一手に操る存在。)が、魔女たちが姉御的存在の自分をすっぽかし、マクベスを相手に勝手な取り引きを行ったことに怒っている。
ヘカテーは魔女たちに語る。「夜が明けたら、あの地獄の入り口に、マクベスがやってくる。己の未来を知りたいばかりに。今度は埋め合わせだ。このヘカテー様を持ちだせ。奴の心を惑わせて、破滅の淵に引きずり込むのだ。」
第三幕 第6場 逃亡者たちの行き先
前場の少し後と思われる。
場所はスコットランド内のある城。
レノクスと他の貴族たちが、最近の血生臭い事件について話し合っている。
レノクスは、諸事不可解なままだと言っている。人徳高いダンカン王を息子のマルコムとドヌルベインが殺害するのも、猛将バンクォーを息子のフリーアンスが殺害するのも、否定することはできない。しかしマクベスは万事うまく片付けたと言っている。
ある貴族の話によると、ダンカン王の長男マルコムはイングランドに向かい王エドワードの庇護を受け、逆境にも関わらず尊敬を集めている。またマクベスの宴会に出なかったマクダフもまた、イングランドに赴き王の援助を求め、ノーサンバランドの領主シュアードを説得しようとしている模様。しかしこれを聞いたマクベスは大変怒り、戦の準備にかかっているとのこと。
レノクスたちはマクダフの安全を祈り、呪われたこの国の苦しみが終わることを祈る。
第四幕
第四幕 第1場 マクベスへの新たな予言
前場と同じ日。
場所は魔女たちのいる洞窟。
煮えたぎる大釜の下の火炎から3人の魔女が現れる。魔女たちは、ヒキガエルやイモリの目玉など気味の悪いものを次々と魔法の釜に加えて掻き回す。
そこにヘカテーが他の3人の魔女を連れて現れ、魔女たちを褒め、もうけは山分けだと語る。そして魔女たちに釜を回って歌うように指示をすると、ヘカテーは帰る。
魔女たちが歌を歌っていると、そこへマクベスが現れ「どんなことをしてもいいから、俺の問いに答えてくれ。」と頼む。
魔女たちが「地獄の大物、小物、姿を現し務めを果たせ。」と言うと、雷鳴と共にマクベスと同じ兜をかぶった第一の幻影が現れ「ファイフの領主マクダフに気をつけろ。」と告げて釜の中に消えた。
続けて、雷鳴と共に血にまみれた子供の姿をした第二の幻影が現れ「女の生み落としたものの中には、マクベスを倒す者はいない。」と告げて引っ込む。
(※後でわかりますが、実はマクダフは帝王切開で誕生しており「女の生み落としたもの」には該当しないことになります。)
さらに、雷鳴と共に王冠をかぶり手に木の枝を持った子供の姿をした第三の幻影が現れ「あのバーナムの大森林がダンシネインの丘に攻め登ってこない限り、マクベスは滅びない。」と告げて引っ込む。
(※後にバーナムで、マルコムが兵力を隠すために兵士に木の枝を頭上にかざして進軍させますが、この時バーナムの森がダイシネインに攻め登ってくるように見えます。)
幻影の言葉を聞いたマクベスは、マクダフには用心しようと思ったが、森を動かせる人間などいるわけがないので、王座に座したまま余生を気楽に生きることができる、と安心する。だがマクベスにはもう一つ気がかりなことがあり、バンクォーの子孫がこの国を統治する日が来るかどうかを尋ねる。
すると今度は釜が沈んでいき、8人の王の影が現れ一つずつ洞窟の奥を通り過ぎ、その後にバンクォーの亡霊が続く。その8人の王たちの影は全員バンクォーの亡霊にそっくりで、それをバンクォーの亡霊が、これが自分の子孫だ、と言いたげな笑いを浮かべて指差している。これは見たマクベスは「(バンクォーの子孫が王になるというのは)本当だったのか」と驚き恐怖する。
(※バンクォーの子孫が王位についたとされるスコットランド・スチュアート朝は1371〜1714年まで続きますが、系譜を見てみるとこの戯曲が書かれた1606年に在位していたジェームズ六世(英国ではジェームズ一世)で9人目の王ということになっています。つまりこの「バンクォーの亡霊にそっくりな8人の王たち」というのは、ジェームズ六世の前に在位したスチュアート朝の王たちを意味していると思われます。このジェームズ六世が1603年に英国王(ジェームズ一世)も兼ねることになるのですが、シェイクスピアの新英国王に対する「あなたの国王就任は予言ですよ!神のお告げですよ!そしてこれを書いた僕どうですか!?アピール」があまりにもひどいと思いません?)
そして魔女たちは踊り、忽然と消える。
そこにレノクスが入ってきて、マクベスにマクダフがイングランドへ落ち延びた旨を知らせる。これに怒ったマクベスは、マクダフの居城ファイフに不意打ちを仕掛け、マクダフの妻子たちを殺してやろうと企む。
第四幕 第2場 マクダフの悲劇
前場から少し時間がたったと思われる。
場所はマクダフの居城ファイフ。
マクダフの妻子と貴族のロスが、逃亡したマグダフについて話している。
マクダフ夫人は、急に逃げたマクダフについて「狂気の沙汰、謀反人とみなされましょう。」と嘆くが、ロスは「今はこれ以上言えませんが、彼は聡明で立派な男です。いずれまた近いうちに伺います。」とマクダフを庇って立ち去る。
婦人と少年が謀反人となった父親について話していると、突然使者が現れ、危険が迫っているので一刻も早くここを立ち退くよう要請して去る。
まもなくして刺客が現れる。マクダフの息子は刺し殺され、夫人は刺客に追われて逃げだす(※特に記載がありませんが、結局マクダフ夫人もこの後殺されるようです。)。
第四幕 第3場 反マクベスの狼煙
前場から何日か経ったと思われる。
場所はイングランド、エドワード王の宮殿前。
スコットランドのダンカン王の息子のマルコムと貴族のマクダフが、マクベスに憤り祖国スコットランドの現状を嘆いている。
マルコムがマクダフに「なぜ妻子を放り出してきたのだ?」と尋ねると、マクダフは「マクベスの領土をもらって悪党にはなりたくない。」と答える。
マルコムが「マクベスは残忍非道で色好み、そして腹黒いが、この私こそも淫蕩で物欲に限りがなく、そして徳もない。こんな私が統治するよりかマクベスの方がマシだ。こんな人間に、国を治める資格があると思うか。」と言うと、マクダフは「国を治める資格などない!国民のかわいそうだ!このマクダフ、スコットランドには永久に帰れなくなりました。」と嘆く。
するとこれを見たマルコムが本音を語る。「その濁りない嘆きよう、確かに誠実の証とみた。さっき述べた心にもない偽りは、全て取り消しにする。憎むべきはマクベス。実は既にイングランドの領主シュアードが、一万の精鋭を率いてスコットランドに出発している。我々もすぐに後を追おう。」
さらにマルコムは「イングランド王は、医術からも見放された病を、手を触れただけで治すことができる力を持っている」と語る。
そこに貴族ロスが到着し、スコットランドの悲しい実情を二人に語る。ロスが「正義の士たちがマクベスに対して一挙に立ち上がった。今こそ援軍を送るべきだ」と主張すると、マルコムは「百戦錬磨のシュアードが一万の兵を率いて援軍に出発している」と答える。
これを聞いて一旦ロスは喜ぶが、マクダフに対して、城がやられて一家が皆殺しになった旨を伝える。
マクダフは、自分のせいで殺されたと嘆き、自分の剣の届くところにマクベスを立たせてくれ、復讐を誓う。
第五幕
第五幕 第1場 マクベス夫人、夢遊病にかかる
何日か経過したと思われる。
場所はダンシネイン、城内の一室。
マクベス夫人の侍医と侍女が、夫人について話をしている。侍女の話によると、マクベス夫人は、マクベスが戦場に出かけて以来、毎晩戸棚の鍵を開けては何やら書いている様子。しかも眠ったまま。
これを聞いた侍医は「これは精神錯乱の兆候だ。何か喋ったったのか?」と聞くが、侍女は「申し上げられません。」と答える。
するとそこへ、マクベス夫人が眠ったまま手にろうそくを持って現れる。夫人は手をこすりながら「まだ血の匂いがする。呪わしいしみ!早く消えろと言うに!」と喋り、さらに「バンクォーはもう墓の中、出てこられるはずはない。夜着をを着ていらっしゃい。」といるはずのないマクベスに語りかける。
これを見た侍医は事の真相を悟り「これは夢遊病で、私の力の及ぶものではない。お妃には医者よりも僧侶が必要だ。」と言う。
第五幕 第2場 マクベスに反抗するスコットランドの貴族たち
どれくらい時間が経過したかは不明。
場所はダンシネイン付近。
スコットランドの貴族メンティース、ケイスネス、アンガス、レノクスらが、反マクベスで結束している。
彼らの話によると、イングランド軍はまもなくダンシネインに到着する予定で、指揮はマルコム、シュアード、マクダフの3人。マクベスはダンシネインに堅固な防備体制を敷いているが、錯乱ぶりがひどく、気が狂ったというものもいるらしい。そしてこの病める祖国の病毒を洗い落とそう、と語り合っている。
第五幕 第3場 予言にすがるマクベス
前場の少し後と思われる。
場所はダンシネイン城内の中庭。
次々と離反していく貴族たちに対し、マクベスは「バーナムの森が動いてダンシネインに来るまでは、マクベスは滅びない。女の生み落としたものの中には、マクベスを倒す者はいない。」という予言を掲げ、自分が倒されることはないと強きに振る舞う。
そこへ召使いが、1万のイングランド兵が押し寄せてきた旨を伝えると、鎧持ちシートンに鎧を持って来させる。マクベスが侍医に夫人の様子を尋ねると、侍医は「ひどい妄想に取り憑かれており、少しもお休みになりません。治療には、病む者自ら心がけるより他ございません。」と深刻な状態を伝える。
マクベスはシートンの持ってきた鎧を身に着け、戦の準備を整える。
第五幕 第4場 バーナムの森から木の枝を頭上にかざして進軍
前場のすぐ後と思われる。
場所はバーナム付近。
バーナムの森にマルコム、イングランドの武将シュアードとその息子、スコットランドの貴族マクダフ、メンティース、ケイスネス、アンガス、レノクス、ロス、そして兵士たちが集まっている。
マルコムはこちらの兵力を隠すため、全軍の兵士に木の枝を頭上にかざして進軍するように命じ、進軍を開始する。
第五幕 第5場 バーナムの大森林が動く
前場のすぐ後。
場所はダンシネイン城内の中庭。
城に立てこもるマクベスは「外壁に旗を掲げるのだ。この金城鉄壁、いくら攻め立てようと、びくともするものか。」と強気。
すると突然、奥の方から女たちの叫び声が聞こえてくる。しかしあらゆる恐ろしいことが日常茶飯時になっていたマクベスは、それに対して恐怖することはなかった。
そこにシートンが「お妃様がお亡くなりになりました。」と報告に来るが、マクベスは「あれも、いつかは死なねばならなかったのだ。」と冷たくあしらい、取り止めようともしない。
しかしそこに使者が「バーナムの森が、急に動き出しました。」と報告すると、「嘘を言うな!」と動揺して決心がぐらつく。魔女たちの「バーナムの大森林がダンシネインの丘に攻め登ってこない限り、マクベスは滅びない。」が現実となりかけていることに気付いたマクベスは、城から打って出ることを決意する。
第五幕 第6場 マルコムとマクダフ、ダンシネイン城前に到着
前場のすぐ後。
場所はダンシネインの城門の前。
マルコムたちによって率いられてきた軍隊は、ダンシネイン城の前まで来ると頭上にかざしていた木の枝を捨てて姿を現し、進軍のラッパを鳴らす。
第五幕 第7場 ダンシネイン城陥落
前場のすぐ後。
場所はダンシネインの城門の前。
マクベスが城門から出てくると、シュアードの息子と出会い、一騎打ちとなりシュアードの息子は殺される。「女の生み落としたものの中には、マクベスを倒す者はいない。」という魔女たちの言葉があるため、マクベスは女から生まれたものを恐れていない。
マクベスが引っ込むと、そこにマクベスへの復讐に燃えるマクダフが現れる。彼はマクベスを探し回っている。
シュアードとマルコムは「城は難なく明け渡された。これで勝負は我らのもの。」と語り合い、城内へ入っていく。
(※マクベスのダンシネイン城は、スコットランド貴族たちの手に落ちたようです。)
第五幕 第8場 マクベス、マクダフに討ち取られる
前場のすぐ後。
場所はダンシネインの城門の前。
マクベスが城門の前に戻ってくると、そこへマクダフが追ってきて、二人はそこで激しく戦う。
マクベスは「貴様の剣がどれほど鋭かろうが無駄だ。俺の命は、女から生まれた人間には手がつけられないのだ。」と言うと、マクダフは「このマクダフは、生まれる前に月足らずで母の胎内から引きずり出された男だ。」と女から生まれたものでないと主張する。
(※要するに帝王切開で誕生したことを表しているようです。)
これを聞いたマクベスは、勇気がくじけ「よせ、貴様を相手にしたくない。」戦いを避けようとするが、マクダフは「卑怯者、それなら剣を捨て、生きて世間の見世物になれ。」と挑発をする。
マルコムに屈することを拒否したマクベスは、これが最後の運試しと盾も投げ捨てマクダフと撃ち合い、ついにマクダフに殺された。
第五幕 第9場 マルコム、大勝利で新王へ
前場のすぐ後。
場所はダンシネイン城内。
戦闘中止のトランペットが鳴り、みんなが城内に集まってくる。
シュアードはマルコムに「味方の大勝利で、損失は微々たるものだ。」と報告する。ロスがシュアードに息子が戦死した旨を伝えると、シュアードは「それなら神兵として神のお側にお仕えできるだろう。」と悲しみながらも気丈に振る舞う。
そこにマクダフが、マクベスの首を旗竿にくくりつけて「これをご覧くださいませ。呪うべき王位簒奪者の首でございます。」と言って現れる。そしてマルコムに対し「スコットランド王、万歳!」と音頭を取ると、トランペットの演奏とともに一同も「スコットランド王、万歳!」と三唱する。
それに対しマルコムが応える。「いずれ一同の忠節をそれぞれ明らかにした上で、十分報いるつもりだ。まずは海外に難を避けた味方の者を呼び戻し、この残虐なマクベスと妃の手先となって働いた者どもを、裁きの庭に引き出すのだ。妃は自ら命を絶ったそうだ。一同に礼を言う。スコーンでの私の王の戴冠式には、もれなく参加するように。」
トランペットの演奏とともに、一同は退場する。
感想!
僕がこの「マクベス」を読んでまず面白いと思ったのが、予言が全て的中するところとシェイクスピアの心理描写。
マクベスが「グラミスの領主になる。」「コーダの領主になる。」「王になる。」という予言を魔女から受けると、一つ目はすでに実現しており、二つ目は間もなく実現し、三つ目は野心に駆られて自力で実現します。
しかしバンクォーの「子孫が王になる」という予言を阻止するためにバンクォー暗殺を企てると、息子のフリーアンスに逃げられ、逆に追い詰められる。
たまらず魔女たちに助けを求めと、「マクダフに気をつけろ。」「女の産み落としたものでは、マクベスは倒せない。」「バーナムの大森林が攻め登ってこない限り、マクベスは滅びない。」という予言を告げられる。マクベスはマクダフにさえ気をつければ他の予言はありえないと安心するが、実はマクダフは通常出産とは異なる帝王切開誕生で、木の枝を頭上にかざした兵士達の進軍により本当に森が動いたように見える。そして動揺して城から打って出たマクベスは、予言通りマクダフに討ち取られる。
全て予言通りです。マクベスは都合の悪い未来を変えようとあらゆる手段を尽くしますが、結局面白いように予言にはまっていきます。
うまい話を考えたものですね。
逆に言うと読み手はほぼ予言通りになることが分かっているわけですから、マクベスの破滅という最後をある程度確信しながら読み進めることになります。
そもそも「四大悲劇」と言われているぐらいですから、相当酷い結末になるだろうくらいのことは読む前から分かっていますよね。
ところが面白いことに、実際読み進めてみると、結末がほぼ分かっているにも関わらず面白い。
この物語の中には、予言の内容を知っている人と知らない人がいます。知っているのは予言を直接聞いたマクベスとバンクォー、そして夫から聞いたマクベス夫人。その他の人は「マクベスが王になる」も「バンクォーの子孫が王になる」も知らないはずです。
ダンカン王暗殺が発覚した時点で、何名かがマクベスが怪しいと思ったようです。記述から読み取れるのは、予言を知っていたバンクォーと第一発見者で宴会に来なかったマクダフ、そして殺しの現場にいて直後に逃亡した息子のマルコムとドヌルベイン。ただこの段階では確信までは得られてない様子。そしてバンクォーは、怪しいと思いながらも「バンクォーの子孫が王になる」という予言があるため、予言の内容を他に漏らすわけにもいかない、といった心理戦もあるわけですよね。
やがてバンクォーも殺され「黒幕はマクベスだ」が貴族たちの共通認識になっていくわけですが、こういった心理の描写が不明確で終盤まではっきり分かりません。というか彼らは感づいても、立場上それを明確に口に出すわけにもいきません。
この周りの人たちの「どこまで確信を持っているのか」を想像するのが、読んでいてとても面白かったです。きちんと描かれていないからこそ想像を掻き立てられるところもありますし、そこには作り話とは思えないリアリティと緊張感を感じるのですよね。
シェイクスピアの特徴は、卓越した人間観察眼からなる内面の心理描写と言われますが、気が付いたら僕もシェイクスピアの心理描写に夢中になっていました。
もう一つ面白くてたまらなかったのが、これまでにも散々書きましたが、シェイクスピアのジェームズ一世に対するごますり。
結局これも予言通りになるのですが、そこまでやるの?と正直呆れました。
マクベスが「バンクォーの子孫が王になる」という予言は本当なのか確かめようとすると、バンクォーそっくりな8人の王の影が現れ、スコットランド・スチュアート王家の礎となることを予告するわけなのですが、
同時にバンクォーの子孫にあたる新英国王ジェームズ一世に対し、「あなたの国王就任は予言ですよ!神のお告げですよ!そしてこれを書いた僕どうですか!?」と猛烈にアピールします。
よくもこのような世界的な名作に、こんなに恥ずかしい追従を堂々と盛り込みましたよね。
それが痛々しいのを通り越して、正直おかしくてしょうがなかったです。一旦他の予言と心理描写が吹き飛びました。
あなたはどう思われましたか?
僕は世界屈指の文豪であるシェイクスピアが急に身近な存在になったような気がして、謎の親近感を覚えました。
それやりたくなる気持ち…わかるわ…。
あなたもそういうタイプだったんだねぇ…。
僕はこの本でシェイクスピアを好きになりました(^^;)。
それでは。