「こころ」は新潮文庫版だけで発行部数700万部以上の最高部数を誇り、
 
太宰治の「人間失格」と人気を二分する、日本近代文学の傑作です。
 
 
この夏目漱石の「こころ」のあらすじ・内容・感想を5分でご紹介します。
 
 
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ざっくり解説!こころってどんな本?

 
「こころ」の主要な登場人物は、「私」「K」「先生」そして「先生の奥さん」の4人。
 
 
 
上「先生と私」、中「両親と私」、下「先生と遺書」の3部から構成されています。
 
 
 
「先生」は信じていた親族に裏切られ財産を奪われ、心に傷を負ってしまいます。しかし「先生」自身も自らの好意で下宿先に招き入れた友人「K」に、下宿先の「お嬢さん(現在の奥さん)」を取られそうになると、「K」を裏切りお嬢さんを奪ってしまう。「K」は失意のうちに自殺。罪の意識に悩まされる「先生」は、仲良くなった「私」にその秘密を打ち明けて自殺へ。
 
 

登場人物の整理

 
「私」 大学生である主人公
「先生」  鎌倉で知り合った、無職だがお金と教養のある男性
「先生の奥さん」 先生の学生時代の下宿先のお嬢さん
「K」 先生の学生時代の同じ下宿に住む友人
 
 

あらすじ

 

上 先生と私

海岸
明治末期の鎌倉で物語が始まります。
 
 
 
夏休みに鎌倉・由比ヶ浜に海水浴に来ていた大学生の「私」は、そこで「先生」と出会い、交流が始まります。
 
 
 
「先生」は学歴はあるが、現在は働いておらず、人との交流も避け、奥さんと静かに暮らしています。
 
 
 
「私」は「先生」に惹かれますが、その「先生」には、毎月必ずお墓参りをする変わった習慣がありました。
 
 
 
しかし「先生」はそれについて深く語ろうとはしません。
 
 
 
「奥さん」も「先生」がなぜ人を避け、隠居生活をするようになったのかわからない。
 
 
 
ただ、学生時代に「先生」の友人が変死してから、彼が変わってしまったことを聞かされます。
 
 
 
 
そんなある日、実家の父が病気で倒れます。
 
 
 
一時帰郷する「私」に対し「先生」は、「父親が生きているうちに、遺産の話は片付けておくように」と意味深な忠告を残します。
 
 
 

中 両親と私

明治の民家
「私」が実家に帰ると、父親の容態は日に日に悪くなり、「私」は東京に戻ることができなくなります。
 
 
 
そして父にいよいよ最後の時期が迫ったある日、「先生」から長い手紙が届きます。
 
 
 
その時、手紙の結末部分だけが私の目に入りました。
 
 
 
この手紙があなたの手に落ちる頃には、私はもうこの世にはいないでしょう。
 
 
 
「遺書」だと気づいた私は、慌てて東京行きの汽車に飛び乗り、長い手紙の続きを読み始めます。
 
 
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下 先生と遺書

 

叔父の裏切り

 
先生からの手紙の内容が、そのまま「下 先生と遺書」の内容になっています。
 
 
 
「先生」は自分の過去について語り始めます。
 
 
 
「先生」は早くに両親をなくしてしまいますが、「先生」の家には財産があり、学生生活を送るために不自由をすることはありませんでした。
 
 
 
しかし何年か経つうちに、両親の財産が、信頼していた叔父に奪われていることに気づき、「先生」は心に深い傷を残しました。
 
 
 
 

下宿先の「お嬢さん」と「K」

 
故郷との縁が切れた「先生」は、東京で下宿を始めます。
 
 
 
下宿先には軍人の遺族である未亡人と、その「お嬢さん(現在の奥さん)」が暮らしていました。
 
 
 
しばらくすると「先生」はその「お嬢さん」に対して恋心を抱きます。
 
 
 
「先生」には学校に「K」という友人がいました。
 
 
 
お寺の息子である「K」はとても真面目な男性で、養親からは医者になることを期待されていました。
 
 
 
しかし「K」は養親を裏切って別の学科へ進学したため、縁を切られ生活が困窮します。
 
 
 
「K」に同情した「先生」は、「K」を同じ下宿先に誘いました。
 
 
 
 

「K」の恋と「先生」の裏切り

ところがその「K」とお嬢さんが急接近をし、「K」から「お嬢さんのことが好きになった」と告げられます。
 
 
 
嫉妬心に駆られた「先生」は、「K」に対して「精神的に成長しないものは馬鹿だ」と、あえて「K」が傷つく発言を放った上で、
 
 
 
下宿の未亡人に対して、娘の「お嬢さん」との結婚を申し込み、その許しを得てしまいます
 
 
 
しかし「先生」は、その事実(先生の裏切り)を「K」につけることができない。
 
 
 
未亡人からその事実(先生の裏切り)を聞かされた「K」は、下宿先の自分の部屋で頸動脈を切って自殺
 
 
 
遺書には「自分は薄志弱行で到底行く先の望みがないから自殺する」というメッセージと、「私」に世話になったお礼があっさりと付け加えられているだけ。(先生」を恨む内容は書いてありませんでした)
 
 
 
本当の死の原因は「先生」しか知らないまま葬儀が行われました。
 
 
 
「先生」は信頼していた叔父に裏切られ、深く傷つきましたが、同じように自分を信頼してくれた「K」を裏切ってしまいました。
 
 
 
 

「先生」の心の傷と殉死

以後「先生」は、激しい自責の念を引きずりながら生きていくことになります。
 
 
 
「先生」は「K」のお墓を作り、「お嬢さん」と結婚もしました。(彼女は「K」の自殺の原因を知りません)
 
 
 
しかし「K」に対する罪悪感に苦しめられ続ける「先生」は、世間を避けるようになり、書物や酒に溺れ、やがては死を意識するようになります。
 
 
 
そんな中、先生に殉死(自殺)を決心させる事件が起こります。
 
 
 
日露戦争で活躍した乃木希典大将が、明治天皇の崩御の知らせを受けて殉死(自殺)します。
 
 
 
この知らせを受けて「先生」は自殺を決意して、「私」にすべての秘密を記した遺書を送ります
 
 
 
その遺書には
 
 
 
「あなた限りに打ち上げられた私の秘密として、すべてを腹の中にしまっておいてください」(妻には言わないでくれの意味)
 
 
 
と締めくくられていました。
 
 
 
こちらはユーチューブでのあらすじの朗読(約5分半)
 ここまでご紹介したあらすじと基本的に同じ内容になります。じっくりと聞いてみたい方はどうぞ。
 
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感想

「先生」の心の傷に共感

 
先生は信じていたおじさんに財産奪われ、深く傷つきますが、同じように自分のことを信じてくれた「K」を裏切ってしまいます。
 
 
 
人間裏切られても傷つきますが、裏切っても傷つきます。
 
 
 
僕は「先生」ほどの大きな裏切りを経験した事はありませんが、人を裏切ったことも裏切られたこともあります。
 
 
 
だから「先生」の苦悩がよくわかります。
 
 
 
読んでいて正直「こころ」が痛かったです。
 
 
 
 
これは「おじさん」や「先生」が特別な存在だというわけではなく、多くの人がどちらにもなり得るし、
 
 
 
多くの人が同じように「心の傷」で苦しむことになるのだと思います。
 
 
 
「先生」の場合、それが友人の自殺という形に現れ、一生消えない「心の傷」になってしまいました。
 
 
 
しかも忘れたくても、その原因となった「お嬢さん(現在の奥さん)」が常に隣にいる。
 
 
 
これでは忘れるどころか、顔見るたびに「心の傷」が開いてしまいます。
 
 
 
僕は「先生」の行い(裏切り)を責めることができない。
 
 
 
なぜなら自分にも心当たりがある。
 
 
 
「K」もかわいそうですが、僕は自分と同じ欠点を持ち、自分と同じように、消すことができない「心の傷」で苦しみ続ける「先生」に対して、同情と共感の気持ちを覚えてしまいます。
 
 
 
きっと漱石も、同じ「心の傷」で苦しんだのでしょうね。
 
 
 
 

殉死は弁護できない

乃木希典の像
しかし一方で、殉死(自殺)という選択だけは、どうしても弁護する気にはなれません。
 
 
 
漱石は「K」を裏切り悩み続ける「先生」に対して、殉死(自殺)という道を選ばせます。
 
 
 
これには当時、明治天皇の崩御(死亡)を追って自殺した乃木希典(のぎまれすけ)大将の死が深く関わっています。
 
 
<乃木希典(のぎまれすけ)>
日露戦争は辛くも日本の勝利に終わりました。その日露戦争最大の激戦地とされるのが旅順要塞になります。旅順要塞を攻略したとされる乃木大将は英雄扱いをされましたしかし実際の旅順要塞攻略戦においては、尋常ではない数の日本の兵士が命を落としました。「作戦があまりにもまずかった。指揮官が無能だった。」と、内情を知るものは口を揃えます。それにもかかわらず英雄として祭り上げられてしまいました。責任感の強い乃木大将は、死んで償いたいと思っていたようです。乃木大将は明治天皇に切腹を申し出ますが、天皇に止められます。自責の念に駆られる乃木を、天皇はあくまでかばい続けました。乃木大将は明治天皇が亡くなると、その後を追って妻とともに自刃します。
 
 
「先生」はこの乃木大将自刃のニュースを聞いて、自殺を決意します。
 
 
 
しかし僕はこの話を、どれだけ贔屓してみても美談としては受け取れない。
 
 
 
国益を背負って戦い、大量の部下の命を自分のせいでを失ってしまった乃木大将の苦悩と、自分の下心で親友を死に追いやってしまった1人の男性の話を、同列に語るのは、どう考えても無理がある。
 
 
 
 
 
残された奥さんの立場どうなんだろう?
 
 
 
この旦那さん(先生)は、ろくに仕事もせずに稼ぐこともしなかった。
 
 
 
そして「英雄」の死に刺激されて、自分を置いて勝手に旅立ってしまった。
 
 
 
あまりにも無責任ではないのか?
 
 
 
僕は同情する一方で、どうやってもこの「殉死」を弁護する気になれない。
 
 
 
 
 
この人にもし子供がいたら、こんな無責任な事はしなかっただろう。
 
 
 
この人にもし中途半端なお金がなかったのであれば、心に傷があろうがなかろうが、こんなに悩む以前に、がむしゃらに仕事に打ち込んでいただろう。
 
 
 
家族を養うため、息子にいい教育を受けさせるために。
 
 
 
 
この「こころ」という小説は、読む立場や見方によっても、見え方がずいぶん変わる不思議な小説だと思います。
 
 
 
僕は自分と同じ欠点を持つこの「先生」に、同情と共感を覚える一方で、弁護をする気にもなれない複雑な気持ちを覚えました。
 
 
 
同じく多くの人が共感する「こころの深い闇」を描いた、日本近代文学の名作「人間失格」もどうぞ。こちらは作品の中ではなく、作者の自殺という結末に至りました。
 
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