「人間失格」のあらすじと感想をご紹介します。
 
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ざっくり解説 人間失格ってどんな本?

 
太宰治が1948年6月の自殺直前に書き残した自伝的小説。本当の自分を誰にもさらけ出すことなく生きてきた主人公の、幼少期から青年期までの道化と転落を描いた、捨て身の自己告白文学。
 
 
主人公の葉蔵が記した「第一の手記」「第二の手記」「第三の手記」と、その手記を入手した人物による感想と体験談である「はしがき」と「あとがき」から構成されています。
 
 
 

登場人物

 
 
大庭葉蔵
東北地方の資産家の末息子。人前で本心を探すことができず、「道化」を演じて自分を守っている。教養があって美男子。進学のために上京するが、酒と薬と女に溺れる自堕落な生活を送り、どこまでも転落していく。
 
 
 
 
竹一
葉蔵の「道化」を見抜いた中学校の同級生。葉蔵と仲良くなり、彼に「女に惚れられる」「えらい絵描きになる」という2つの予言をする。
 
 
 
 
堀木正雄
葉蔵より6歳年上の、同じ画塾の生徒。葉蔵に酒・タバコ・淫売婦・左翼運動などを教えた遊び人。
 
 
 
 
ツネ子
カフェの女給(ホステス)。夫が服役中で寂しい雰囲気を持った22歳の女性。 葉蔵と入水心中し、彼女だけ死亡。
 
 
 
 
シヅ子
シゲ子(5歳)を雑誌の記者をしながら育てる28歳の未亡人。シゲ子も懐くが葉蔵は2人の前から消える。
 
 
 
 
マダム
京橋のスタンドバアを経営し、葉蔵の面倒を見る。後に廃人になった葉蔵から手記を受け取り、それを作家に渡す。
 
 
 
 
ヨシ子
スタンドバアの向かいのタバコ屋の18歳の娘。葉蔵の内縁の妻となるが、人を疑うことを知らず行商人と関係を持ってしまったことが原因で思いつめ、葉蔵との間はぎくしゃくする。
 
 
 
 

あらすじ

はしがき

 
「私」はその男の写真を三葉、見たことがある。
 
こんな言葉で始まります。
 
 
葉蔵とは面識のない「私」(あとがきで京橋のマダムから葉蔵の手記を手に入れた作家らしいことがわかる)が、葉蔵の写真の感想を述べます。
 
 
1枚目は、拳を固く握りしめたまま作り笑顔を浮かべる「幼年時代の写真」
 
 
2枚目は、気味の悪い美貌の「学生時代の写真」
 
 
3枚目は、不吉で不愉快、目をそらしたくなる歳の頃がわからない「白髪混じりの写真」
 
 
そして「私」は葉蔵の手記を読み始める。
 
 
 

第一の手記

 
恥の多い生涯を送ってきました。
 
手記はこのように始まります。
 
 
大庭葉蔵は、東北の田舎の裕福な代議士の家の末息子として生まれます。
 
 
葉蔵は幼少期から空腹感や他人の感覚がわからない、少し変わった子供でした。
 
 
自分が異質であり、それを人に悟られることを恐れた葉蔵は、ひたすら無邪気な楽天性を装い、「道化」になることを決め込み、ひたすら自分を隠し通す幼少期を過ごします。
 
 
学校での成績は常に優秀でしたが、尊敬されることを避け、学校でもひたすら「道化」を演じます。
 
 
彼の周りの大人たちも、裏表が激しかった。
 
 
父親の政党の有力者が故郷で講演をした時は、表では盛大にほめたたえる一方で、裏ではクソミソに悪口をいっている。
 
 
葉蔵自身も自分を偽っていましたが、大人たちのあざむきあいながらも、明るく朗らかに生きている様子が理解できなかった。
 
 
 

第二の手記

 

「道化」を見抜かれる

 
中学へ通うようになると、そこでも「道化」を演じて人気者となります。
 
 
しかし同級生の竹一に道化を見抜かれる。
 
 
自分の「道化」をバラされることを恐れた葉蔵は竹一を懐柔して無理矢理仲良くなります。
 
 
仲良くなった竹一は葉蔵について、2つの予言をします。
「えらい絵かきになる」
「女に惚れられる」
 
 
結果的にこの予言は割と当たったようです。
 
 

堕落と心中事件

 酒とタバコ
葉蔵は中学を卒業すると、東京の高校に進学し、画塾にも通うようになりました。
 
 
そこで 葉蔵は6歳年上の堀木と出会い、酒・タバコ・売春婦などの遊びに加え、左翼思想を教わります。
 
 
これらの遊びは葉蔵の人間恐怖と不安を紛らわし、葉蔵は次第に売春婦にのめり込んでいました。
 
 
やがて葉蔵は生まれ持っての美貌もあり、女を惹きつけ寄生する術を身に付けていきます。
 
 
さらに左翼運動にも傾倒していくようになりますが、やがて勉強をサボるようになり、
 
学校に通っていないことが実家にバレると、仕送りを減らされてしまいました。
 
 
追い詰められた葉蔵は現実から逃れたくなり、人妻であるカフェの女給ツネ子と関係を持ち、2人で鎌倉の海に入水心中を図ります。
 
 
しかしツネ子だけが命を落とし、葉蔵だけが助かってしまいました。
 
 
葉蔵は自殺幇助罪のに問われますが、起訴猶予となります。
 
 
※太宰治は21歳の時、同じように知り合ったばかりの女性と鎌倉の海で投身自殺を図り、女性だけが亡くなりました。
 
 
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第3の手記

 

流転と寄生の日々

 
高等学校からは追放。
 
 
身元引き受け人となった父親の知人ヒラメに、今後について問われるますが、ヒラメの家から逃亡。
 
 
28歳の雑誌記者で未亡人のシヅ子の家に寄生し、漫画を描く仕事を得ます。
 
 
シヅ子の娘のシゲ子もなつきますが、次第に酒に溺れ、親子2人の幸せ壊してしまうと悟った葉蔵は、2人のアパートを去ります。
 
 
すると今度は、京橋のスタンド・バアのマダムの元に押しかけ、泊まり込んでしまいます。(後に葉蔵は、このマダムに自分の手記を送ることになります)
 
 
さらにしばらくすると、バアの向かいのタバコ屋の天真爛漫な18歳の娘ヨシ子と仲良くり、同棲(内縁関係)を始めます。
 
 
 

ヨシ子の悲劇と再転落

 
葉蔵は酒をやめて漫画の仕事に精を出し、しばらくの間、幸せな時間が流れました。
 
 
ようやく葉蔵に人間らしい営みの予感が訪れた頃、不幸な事件が起こります。
 
 
疑うことを知らないヨシ子が、家にあげた商人に侵されてしまい、葉蔵がそれを目撃してしまいます。
 
 
ヨシ子の無垢な信頼心はなくなり、必要以上にビクビクし、夫婦の間は急にギクシャク。
 
 
葉蔵は再び荒れ、アルコールに浸ります。
 
 
 

自殺・薬物・人間失格

 薬物中毒と人間失格
そんなある日、葉蔵はヨシ子が自殺用に購入した睡眠薬を発見し、突発的にそれを服用して自殺を図ります。
 
 
しかしまたも失敗
 
 
そしてさらに酒に溺れ吐血
 
 
酒を止めるためにモルヒネを手に入れますが、今度はモルヒネ中毒になり薬代で金欠。
 
 
完全な中毒患者になり、半狂乱となって追い詰められた葉蔵は、ヒラメと堀木に脳病院へ連れて行かます。
 
 
強制的に病院に収監された葉蔵は、そこで自分が「人間失格」になったことを自覚しました。
 
 
 
 
3ヶ月後、廃人同様になった葉蔵は長兄に引き取られ、東北の田舎の古い家に、醜い老女中テツとともに隠居生活をさせられます。
 
 
 
 
そしてさらに3年の年月が流れ、
 
葉蔵のこのような言葉で、この手記は締めくくられます。
 
「今の自分には幸福も不幸もありません。」
 
「自分は今年27になります。白髪が増えたので、40以上に見られます。」
 
ここまでが葉蔵の手記になります。
 
 
 

あとがき

 
ここで「私」(作家らしい)が、この3つの手記をどのように手に入れたのかが明らかになります。
 
 
場面は太平洋戦争末期?(おそらく最後の手記の記述から10年ほど経過しています)の船橋のとある喫茶店。
 
 
そこには空襲で焼け出された京橋のスタンドバアを経営していたマダムがおり、
 
「私」はマダムから「小説の材料になるかもしれない」と、3冊のノートと3枚の写真を受け取ります。
 
 
マダムの話によると、10年ほど前に京橋のマダム宛にそのノートと写真が葉蔵から送られてきたが、葉蔵の生死はわからないらしい。
 
 
 
マダムは最後にこう言います。(マダムも葉蔵の手記を読んでいます)
 
「…だめね、人間も、ああなっては、もうだめね」
 
「私たちの知っている葉ちゃんは、とても素直で、よく気が聞いて、あれでお酒さえ飲まなければ、いいえ、飲んでも、…神様みたいないい子でした」
 
 
 
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感想

 
太宰治は、人間失格を書いた1月後に自殺をします。
 
 
彼にはすでに何度も自殺未遂があり、連載開始当初から、自殺を前提に「人間失格」を書いているのでは?との噂が飛び交っていたそうです。
 
 
僕はこの作品を読んで、彼が死に追い込まれていってしまった理由が、ちょっとだけわかる気がします。
 
 
そしてつらく悲しい気持ちにさせられました。
 
 
 
 
彼は「道化」を演じていたと表現していますが、結局自分にも周りにも嘘をつき続けてしまった、ということになるのだと思います。
 
 
嘘をついて誤魔化して、本来自力で乗り越えなければならない、人生の苦難から逃げ続けてしまったのだと思います。
 
 
「道化」を演じて人気者になるという行為は、努力もなくチヤホヤされる薄っぺらくて楽な道でしかない。
 
 
でもその薄っぺらい「道化」は、現実から自分をごまかして逃げているだけであって、
 
これを繰り返しても、自力で困難を乗り越える力はいつまでも身に付かない。
 
 
乗り越えられないから、自分をごまかしてさらに逃げてしまう。
 
 
 
 
さらにこの「道化」の延長線上に、
 
容姿と母性をくすぐるたらし込みで女性を渡り歩く術を覚え、
 
楽な方へ、ダメな方向へどんどん流れていってしまった、
 
人に寄生することでしか生きられない「人たらし」「女たらし」の道へ、転落していってしまったのだと思います。
 
 
楽な「道化」で乗り切ることしか知らないから、目の前の苦しみから楽に逃れられる酒と薬に簡単に手を出してしまう。
 
 
人生のあらゆる苦難から逃げ続けた成れの果てが、この著者の自殺だったのだと思います。
 
 
 
 
 
彼が自分の命と引き換えに残してくれた「遺書」から、教訓を受け取るのであれば、
 
 
「道化は結局嘘であり逃げなんだ。いつかは破滅するぞ。」
 
 
僕はこの小説から、こんなメッセージを受け取った気がしました。
 
 
自分にも思い当たる節が大きくて、読んでいて本当に心が痛い。
 
 
太宰治の捨て身のメッセージは、本当に心に深く刺さります。
 
 
 
 
 
でも僕は彼がかわいそうでならない。
 
 
物心ついたときには、自分を守るためにそうせざるを得ない家庭環境だったこと。
 
 
そしてそれを通さざるをえなくなってしまったこと。
 
 
人間生まれてくる家は選べない。
 
 
 
彼自身に問題がなかったとは言わないですが、僕はそれ以上に親の責任が大きいと思いました。
 
 
困難に立ち向かうことを覚えさせず、「道化」という安易で薄っぺらい逃げ場を許してしまったこと。
 
 
親が子供の「道化」に気づかないはずがない。
 
 
わかっていながらそれを正す「厳しい教育」をしてこなかったことが、この悲劇の始まりだったのではないかと思います。
 
 
「人間失格」は、読むときの年齢や精神状態によっても、感想が大きく異なってくる小説だと思います。
 
 
親の世代が、自分の子供の教育を見つめ直すために読んでもいい本だと、僕は感じました。
 
 
 
「人間失格」は、新潮文庫版だけで670万部も発行されており、夏目漱石の「こころ」と何十年にもわたり累積部数を競い合う、日本近代文学を代表する名作です。
同じく心に負った傷に苦しみ死を選ぶ、人間のエゴと倫理の葛藤を描いた、この「こころ」と読み比べてみるのも面白いと思います。
 
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